第7話 『神明会』
七.
理事長からのお願い、と言うか提案。
それはあまりに唐突過ぎることで。
「この学園はとある機関へ進むことのできる人材を探し出して育成する目的で設立されたのだよ」
そんな前置きから始まった理事長の説明はとんでもない話だった。
この世界には霊魂の存在や妖怪と呼ばれるものたちなど、現在の科学では解明不可能な不可思議な現象が起きている。
すべての人に観測できるわけではなく一部の人間にのみ観測できるそれらはそもそもオカルトとして扱われ、科学ではないと一部の研究者などには揶揄されており、学者たちの間でもあまり評判はよくないためあまり表立ってそういった研究機関と言うのは存在していないことになっていた。
しかし実際に起きているのは間違いない。
そしてそういったものによって起きる事件や事故も多々存在していることを受け、この国を含め数カ国共同でそういった不可思議な現象を解明するための極秘研究機関を立ち上げた。
それがこの学園も所属している『神明会』と呼ばれる機関。
神秘を証明する、と言う意味を持っているらしい。
多数の学者や調査部隊、政治家や国の上層部の人々が在籍している、壮大な機関だった。
そしてその神明会に入れるだけの能力を持った少年少女を探して育成するのが葦原学園、と言うことだ。
そもそも霊などは特殊な才能を持った人間しか視認することができない。
見ることができなければまず解明することも難しい、と言うことになる。
見えないため科学分野から追求していくものもいるがそちらはまず高校生の時点では知識的な問題で引き抜き対象にならない。
専門的な知識を十分に付け、周囲の意見に流されずに強い意志で目指せるもの以外、この分野は志せない、ということらしい。
しかしその一部の才能さえ持っていればもうすでに高校生の時点で十分に素養があり、育成していけば将来的に神明会の役に立つため、この学園のような場所があるということだった。
そして葦原学園では『心霊探偵倶楽部』と呼ばれる部活動があり、そこが神明会による育成の場と言うことになるらしい。
心霊探偵倶楽部に入ると学費や教材費など学園に必要な経費がすべて免除となり、その上心霊探偵倶楽部として活動中の授業免除や必要経費もすべて学園持ち、さらに給金まで支払われるという破格過ぎる、むしろ怪しいとしか思えないほどの待遇を得られるということだった。
正直怖すぎてうなずけない。
あとからいったい何を吹っかけられるかわかったものではないだろう、そんなの。
だって、そんなことをしていったい学園側になんの得があるというのか。
私立なのだから利益もなしにそんなことができるわけがないだろう。
理事長によれば神明会から元々捜査費用や育成費用などが支払われている上、神明会へ紹介することができるレベルまで育てることができればその紹介料プラス謝礼が支払われるため利益は十分に出ると言う。
その上神明会は国家を通じた機関であり、名前を売っておくことはかなり意味のある行為になるらしい。
確かにそれなら納得できないことはなかった。
そんな重要な役目を負った学園なら潰れたりする心配もないだろうし、そういった場所だと知って力を持った少年少女が来てくれれば学園としても万々歳、というわけだ。
大っぴらにそういう場所だと明示はしていないが心霊関係の業界ではかなり名前の通った学園だということ。
神明会ともども、かなり長い歴史を持った学園らしかった。
「信じてくれとは言わないし、強制もしない。しかし、ひとつだけ知っておいてほしいことがある。何故今回木本くんにまで話をしたのかと言えば、彼の死因であるあの事故も心霊現象が関係あると我々は考えているためだ。その調査に心霊探偵倶楽部が当たることになるのだが、君たちも参加してみる気はないだろうか?入部するかどうかはその後に決めてくれてもいい」
「それは、本当のことだとしたら願ったり叶ったりではあるのですが」
まさかあの事故が心霊現象だなんて。
いやしかし、普通起きるわけのない事故だ。
何せ横転である。
電車が横転だなんて、この現代日本ではありえないことと言っていいほどだろう。
可能性はないとは言えない、と言うか高いのだろう。
しかし、だ。
「ひとつだけ質問してもいいでしょうか?」
これだけは聞いておかなくてはならない。
ぼくにとっては最も重要なことなのだ。
この答え次第ではぼくは彼らとは敵対しなくてはならなくなる。
「神明会と心霊探偵倶楽部は幽霊や妖怪を退治するために研究や調査をしているのですか?」
もしそうなのだとすれば、ぼくは絶対に許せない。
賛同するわけには行かないのだ。
だって、ぼくのとても大切なものがかかっているのだから。
「それは、ないよ。我々は心霊現象を解明し、霊や妖怪たちへの理解を深めようとしているだけなのだから。実は私の友人も妖怪なのだよ」
そう言って微笑んだ理事長の顔をじっくりと見つめる。
しっかりと見極めておきたかった。
その目は、なんだかどこかで見たことあるような気がして。
なんとなく理解した。
この人は本当に妖怪の友人がいるのだろう。
そしてその方のことを本当に想っている。
だから、大丈夫だ。
一度だけハルを振り返る。
ハルはそれだけで悟ったようで、うなずいた。
「わかりました。今回の調査、参加させてください」
「いいんだね?」
「調査に参加してみて、それから今後のことは決めます」
「そうか、ありがとう」
「いえ、こちらこそありがとうございます。あの事故について、違和感はやはりありましたから」
「そうだろうね。不可解すぎる事件だ。ひとつだけ守ってほしいことがある」
「はい?」
「神明会のことや心霊探偵倶楽部で調査した内容については守秘義務を敷かせてもらうことになる。神明会の意図しない形で事実が伝わってしまうのを避けるためだ。申し訳ないがそれだけは守ってもらえるかな?」
「はい、わかっています。あ、ただ、家族には話しても構わないでしょうか?」
「君の家族なら構わないよ。ただ、被害者の家族には伝えないで置いてもらえるかな」
「わかりました」
やっぱり、なんとなく予想が付いていたけれど、そういうことなんだろうな。
事実を知ることによって新たな悲しみが生まれないように。
そうやって神明会という機関は情報を操作するのだろう。
つまりそれだけ大きな機関であるということ。
やはり少し怪しいなと言う気持ちは消えないがハルの件は正直ぼくだけでは調べきれないだろう。
それがハルのためになるかはわからないけれど、知りたい。
いったい何が起きたのか。
そして、それは防ぐことができるのか。
そうしないと安心して日々を過ごすこともできないから。
そうして明日から心霊探偵倶楽部として活動することが決まった。
心霊探偵倶楽部は特別教室で活動することになるらしい。
これから調査することになるため、明日以降授業は免除、と言うことに。
朝から集合する教室を教えてもらい、理事長と別れを告げた。
「とんでもないことになっちゃったな」
「そうだね。けど、やっぱ、知りたいよ。自分のことだもん」
「だな。それ知ることができたら、すっきりしそうか?」
成仏できそうか?暗にそんな意味を込めて。
「そうだね、うん、たぶん。あと、解決してからでいいんだけど、ひとつだけわがままを聞いてもらっていい?」
「なんでもいいよ。ぼくにできることならなんでもしてやる」
「うん、ありがと」
なんとなく、何をお願いしてくるのかはわかっていた。
けれど、あえて聞かないことにしておく。
それを口にしてしまったら、最後だ。
その時が本当にハルが成仏するときだろう。
今はまだ、違う。
その時までぼくはずっと、ハルのそばにいてやろう。
これがハルと過ごせる最後の時間だから。
せめて、後悔がないように。
全部、ハルに伝えよう。
ぼくから大切な、大切な友達に、想いを込めて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます