給食食ってる最中に告白されたんだが……
でんでろ3
第1話
「田中君、私、あなたが好きなの。付き合って」
「吉田さん、僕は、君が嫌いなので付き合えません」
「田中君は私のどんなところが嫌いなの?」
「例えば、クラスのみんなが見守る給食の時間にいきなり告白してきて僕を晒し者にするところだよ」
場所は第九中学校2年B組の教室、時は給食時間の終盤、突然の告白劇に、教室中の耳目は田中君と吉田さんの2人に集中していた。
「だって、OKしてもらえると思ったんだもん」
「そうだったとしても、公衆の面前はやめろ!」
田中君は激高して机を叩いた。
「だいたい吉田さん、僕と大して親しくないよね?」
「そうね」
「吉田さんは僕を好きになるに足るだけ僕のことを知らないと断定する」
「ならば、こうとも言えるわ」
「なんだ?」
「田中君も私と大して親しくない」
「そうだな」
「田中君は私を嫌いになるに足るだけ私のことを知らないと断定する」
「いや、『嫌う』って普通そんなもんじゃないか?」
「明確な根拠を列挙されないと諦められないわ」
「そういうところも嫌いなんだが……」
「とにかく、私を知った上で嫌いなさい!」
「分かったよ。君も僕を知れば、きっと僕を嫌いになるだろうからね」
田中君も吉田さんも容姿は十人並み、クラスでも特に目立つ方ではなく、これまで、特に、スポットライトを浴びることもなかった。
それが、いきなりのこの事件。周囲は、はやしたてるのは何となく憚れたが、その実、その行く末に興味津々であった。
さて、給食の片付けが終わって。
「では、お互いを知るために『あっち向いてホイ』をしよう!」
いきなり田中君が言い出した。
「えっ? ちょっと、待って。何で『あっち向いてホイ』なの?」
吉田さんは戸惑いを隠せない。
「お、早速、嫌いになったか?」
「そうじゃなくて、理解できないんだけど?」
「理解できないものを好きにはなれないだろ?」
「……なんだか分からないけど『あっち向いてホイ』しましょう」
勝負はいきなり白熱した。一進一退の攻防が繰り返され、なかなか勝負がつかない。
そんな中、急に吉田さんが、
「分かった! 次で勝てる!」
と言った。
ジャンケンは、吉田さんが勝利し、自信満々に、
「あっち向いてホイ!」
とコールしながら、人差し指を上に向けた。
しかし、田中君は右を向いた。
「え? なんで?」
吉田さんは明らかに動揺し、次のじゃんけんに負け、田中君が強めに、
「あっち向いてホイ!」
と言いながら左を差すと、そのままそっちを向いてしまった。
「なんでー?」
吉田さんは不思議そう。
「君が余計な勝利宣言をしなければ、たぶん負けてたろうね」
田中君は解説を始めた。
「僕は、君の勝利宣言を聞いて、何か僕の癖をつかまれたと思って、あえて動きたいと思う方向と違う方向に動いたんだ」
「えぇ~?」
さて、放課後になりまして。
「田中君、一緒に帰ろう」
「吉田さん、家、どこだっけ?」
「十二支町」
「全然、逆方向じゃないか」
「私が、田中君の家の方について行くから……」
「いいよ、暗くなった道を女の子一人で帰すわけにもいかないでしょ? 僕が送っていくよ」
帰り道。
「吉田さん、僕のこと嫌いになった?」
「田中君、なにか好感度が下がるようなことしたっけ?」
「嫌がる女子に無理やり『あっち向いてホイ』をさせた」
「あれ、楽しかったわよ。負けちゃったけど」
「あれ? そう?」
「いまだって、帰り道逆なのに送ってくれてるし。ますます好きになってるんですけど」
「う~ん、他人に酷いことするとかできないしなぁ」
「田中君は私のこと好きになった?」
「いやいや、吉田さんこそ、なにか好感度が上がるようなことした?」
「してない」
「でしょ? なんで何の努力もしてないのに、成果だけ期待しちゃうの?」
「田中君は私のどこが嫌いなの?」
「給食食べてる真っ最中に、クラスのみんながいる前で、いきなり告白するところ。それで、OKしてもらえるとお気楽に信じ込んでいるところ。何の努力もしてないのに好感度が上がってるんじゃないかと思ったりするところ」
ここまで言って、田中君は気が付いた。吉田さんが泣きそうになっている。
「ひどいよ、田中君。そんなにスラスラ長々と私の嫌いなところを言わなくたって……」
「いや、ちょっと待って。吉田さんが言ってって言ったんでしょ? それに僕が言ったのってかなり非常識な内容だよね? そんな『あんたが悪い感』出されても困るんだけど?」
「……女の子が勇気振り絞ったんだよ」
「だったっら、もっとつつましい場所がいくらでもあったでしょ?」
「なんか、どこかに呼び出す勇気が出なくって」
「あー、それも勇気いるよね、って何かが違―う!」
「でも、田中君が言ったのって、全部、今日起きたことよね? 昨日までは私のことどう思ってたの?」
「昨日?」
「そう、昨日まで」
「……それは、その」
「なに?」
「……ちょっといいなと思ってた」
そこに、一人のおばさんが通りかかって吉田に声をかけた。
「あら、有希。そちらは、お友達?」
「あ、お母さん、彼氏だよ」
「そういうとこだぞ! 吉田―!」
田中君は顔を真っ赤にして叫んだ。
給食食ってる最中に告白されたんだが…… でんでろ3 @dendero3
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