【71】命の灯を吹き消すように
二年も同じ事ばかりしていると、多少は板についてくるみたいだ。
魔物狩りの仕事も料理も何の問題もなく、全てが順調だった。最近はもう、ギルドのヤツらもちょっかいを出してこない。いや、もう放置されていると言った方が近いのかな。
死んで稼いで食って稼いで死んで食って稼いで死んで食って食って死んで。
その繰り返し。ここまで来るともはや作業感すらある。
〝死〟という、普通の人間にとってたった一度の、それ故に畏敬の念と共に生涯を付き添うであろう現象。僕達はそれを、枯れ木の残り少ない葉をむしり取るように、あちらこちらへと投げ捨てていく。
死ぬ為に死に続ける毎日。ふと、思う。生きるって何だろう、って――――
「――――あぁん? 生きるってのはそりゃあ……んー」
何気なく尋ねてみると、案の定アリシアは頭を抱え込んだ。フェローは噴き出すように笑う。
「はは、いいよいいよ無理に考えないで。元々答えなんて期待して無いし」
「何だそりゃ。俺がバカだって言いてぇのかよ」
「違うって。気に障ったなら謝るよ」
フェローとしては本当に答えなんて期待してなかったのだ。だって、この問いに本当の意味で答えられる人ってのは多分、〝この世〟にはいないと思うから。
「模範解答があるとしたら……子供を作って次の世代に繋ぐ為、とか、何かしらの目標を達成する為、とか? あとは、何の為に生きるのかを知る為に生きる、みたいな。ちょっと哲学的だけど」
「んー、なら俺達も簡単だな。死ぬ為に生きてる、それだけだろ?」
「そうなるんだろうね。まぁ、死ぬ為に生きてる、ってのは全ての人間に当てはまる気もするけど」
この世の中の人間の大半は、死にたくない、と思ってるだろう。死ぬのは怖いし、不安だ。嫌がるのは至極まっとうな話だろう。
だから、生きる。生き続ける。死を先延ばしにする為に。いずれ必ず、死がすり寄って来る事を頭の片隅で理解した上で。
「そう考えると、僕達って死んだらどうなるんだろうね?」
「どうって、死後の世界的なとこに行くんじゃねぇの? 天国とか地獄とか」
「あるといいねぇ、そういうとこ。ちなみにアリシアはどっちがいい? 僕は地獄。今さら天国に行ってもなんか違うって言うか」
「同感、俺も地獄希望。そっちの方が今の暮らしに近そうだしな!」
アリシアは口角を釣り上げて笑う。歯が見えるほど豪快な彼女の笑いに、僕もつられて笑った。
「はは……変わんないね君は。さて、今日はどうする? 死ぬ?」
「いや、いいや。なんかそんな気分じゃねぇ」
「奇遇だね、僕もだよ。それじゃあ明日二回分死ぬ事にして、今日はのんびりと料理の研究でもするかな、僕は」
「おっ、美味いのを期待してるぜ! じゃあ俺はそれまで昼寝でも」
「残念。一人でもやれそうな依頼をいくつか見繕ってもらってるから、それこなして小遣い稼ぎしてきて、アリシア」
「えー、マジかよ。最近なんか金銭感覚シビア過ぎね? フェロー」
「家計のやりくりをしてるのは誰だと思ってんの。いいからさっさと行け」
「あいよー。主夫怖いわー」
誰が主夫だ誰が。フェローはぶつくさ呟きながらも台所へと向かう。
口には出さないし、いつも通りの毎日。でも、心の中で常に意識している。
その日はもう、すぐそこだ。
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