【527】死なぬが故に

 僕達は賞金稼ぎだ。けど、どこかの組織に属してるわけじゃない。


 名を上げたいのなら、どこでもいいのでギルドに属していれば楽だろう。賞金首狩り以外の仕事も舞い込んでくるだろうし、何より各方面に顔が利く。


 でも、僕達はただ死にたいだけ。そして、食い扶持を稼ぎたいだけ。有名になりたいなんてこれっぽっちも考えてなかったし、アリシアもそこは同じだった。


 とまぁ、その程度の浅い考えでフリーの賞金稼ぎになったわけだけど、結果的にそれは正解だったらしい。何故なら――――



「――――おーい、フェロー。死んでるかぁ?」

「……おかげさまで、ね」


 フェローは仰向けに倒れたままそう答えた。身を浸す血だまりの嗅ぎ慣れた臭いに、自分が生き返った事を改めて自覚する。


「あいつらは?」

「さぁな。何人かは逃げたんじゃねーの?」

「そっか。どうせなら皆殺しにしときたかったけど」


 二人は今日、街の人間によって賞金が掛けられた魔物の群れを狩りに来ていた。

 それ自体はよくある事。一つだけ違うのは、今日は他の人間とチームを組んでいた。


 そもそも二人はナイフすらもほとんど握った事がない闘いの素人。故に、その死なない体を最大限に駆使して獲物を狩ってきた。

 時には死んだふりからの不意打ち。時には己の体に毒を塗って食い殺され。時には死にまくりながらのゾンビ戦法。


 そんな不気味な存在が同業者の目に留まらないわけもなく、たまに狩りに誘われるのだ。その大半が死なない囮、あるいは捨て駒として。


「何回死んだ? 俺は五回」

「僕は六回。おかげで全く体が動かないよ。アリシア、頼んだ」

「あいよ。つっても、俺も結構限界なんだが」


 賞金首を狩れば賞金が生じるわけだが、同業者達はみな、同様の考えが頭をよぎるらしい。大して働いてもいない捨て駒に分け前なんかいらないだろう、と。


 結果、フェローとアリシアは同業者達の襲撃を受けこうして今、その死なない体を以ってどうにか返り討ちにしたところなのだ。


「ったく。俺達が死なない事を知ってて誘ってきたんだから、試合に勝てても勝負には勝てない事くらい分からねぇのかね」

「目の前のド素人に『僕は絶対に死にません。だから闘っても無駄です』なんて言われても、どうにかすれば殺せるだろ、って思うのはむしろ自然じゃない?」

「それもそうか」


 アリシアが廃墟の陰から革袋を引っ張り出してくる。魔物狩りに当たって、二人が持ってきた唯一の荷物だ。

 中身は、大量の弁当。無論、こういう事態を想定しての対策だ。


 笑ったアリシアは、革袋から取り出した巨大おにぎりをフェローの口の中に押し込んだ。あまりに乱雑なやり方に抗議の眼差しを投げつつ、おにぎりをどうにか咀嚼したフェローは、少しずつ熱を帯びていく体をゆっくりと動かした。


「……ふぅ、これで少しは動ける。ありがと」

「よせよ水臭い。んじゃま、さくっとってくれ」

「ん。それじゃ、良い死出の旅を」

「すぐに帰ってくるけど、なっ……」


 フェローの突き出したレイピアに心臓を貫かれ、アリシアは笑いながら倒れた。疑似的にではあるが、紛れもない人の命を奪う感覚。フェローは血に塗れた己の手を見つめてこぼした。


「女の子を何百回も殺すとか……趣味の悪い罰ゲームだよね、ホント」




 こうして、不死の肉体を持つ不気味な2人組の名は、2人が死んでいる間にも世に轟く。

 もし彼らが名を上げるつもりだったなら、今以上のペースで同業者に襲撃されて死を積み重ねていただろう。今以上の多額の食費に頭を悩まされながら――――




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