【796】効率的な死に方

 ――――何度か死ぬ事で、分かった事があった。


 一つ。死んだら確実に生き返るけど、それにはかなりエネルギーが必要らしく、かなり疲労した状態で生き返る。早い話が、めちゃくちゃ腹が減る。生き返った後に何かしら食べないとふらふらだ。


 二つ。死に方は〝自殺〟以外であれば何でもいい。首を吊る、自分の心臓を刺す、みたいな方法は自殺になるけど、水に頭を突っ込んで溺死、落ちてくる岩の下に潜り込んで圧死、みたいな〝事故〟の範疇であればちゃんと死ねる。


 そこで、僕とアリシアは死に方のルールを決めた。


 赤の他人を利用した死に方は基本的に控える事。極力二人一緒に行動して、賞金稼ぎとして食事の為の金を稼ぐ事。死ぬ時は互いに互いを殺し合う事。不慮の事故で片方が死んだら、もう片方も適当に事故を探して死ぬ事。


 あとは、一日一死を基本にする事。大体こんなところか。ああ、なんてめんどくさい。


 けど、まぁいいさ。アリシアと出会ったのもこういう状況に陥ったのも一つの縁。一蓮托生。


 1000回分、せいぜい同じ速度で歩んで死んで行こうじゃないか――――



「――――アリシア。ご飯できたよ」

「待ってましたぁ!」


 ギシリと古ぼけた音を立てる木のベンチ。跳ねるような足取りでダイニングまで来た同居人を見やり、フェローは苦笑しつつも手にした皿をごとりと置いていく。香ばしい湯気を立てるそれらを見やり、アリシアは生唾を呑み込んだ。


「ねぇシェフ? 今日のお料理はなぁに?」


 彼女らしからぬ猫撫で声。フェローは素知らぬ顔で返す。


「雪原ウサギの香草焼き、ゼベク闘牛のガーリックステーキ、ジャガイモとトマトとベーコンのオニオンスープ、特製バジルソースのパスタ、黄金ラザニア、それと……有り合わせ野菜と果物のサラダ」

「おいこら、最後だけ手ぇ抜いただろ」

「うるさいな。僕は手の込んだ料理は好きだけど、サラダみたいな手抜きの極みみたいな料理は逆に作る気しないんだよ。……君とは真逆でね」


 なおもぶーぶーと文句を垂れるアリシアに聞こえないよう、フェローはぼそりと呟く。


 サラダ作りならば辛うじてこなせるレベルの彼女は、繊細なフェローと違って色々と荒々しい。具体的には、下手な事を言うと鉄拳が飛んでくるくらいには。


「ほら、ご飯がマズくなるから騒がない騒がない」

「はっ、そうだな。結果的に美味けりゃそれでいいんだしよ!」


 アリシアは笑顔を絶やさない。多分、生き返る代償の空腹感とかは関係なく、彼女は心の底から食べる事が好きなのだ。


 もう200を数えるくらいは死に、気付けば半年ほどが過ぎた。

 最初の頃は外食をしていたけど、明らかに金の無駄なので早々に自炊に切り替えた。元々、あのクソみたいな村では自炊をしていたし、その料理経験がこうして役立っている。


 死ぬ為に誰かを殺して金を稼ぎ、生きる為の行動であるはずの『食』に気を遣いながら、仮初の死をこなし続ける。そんな空虚な日々。

 だけどそんな日々の中、フェローはちょっとした充実感を感じてもいて。


(そんな顔で食べて貰えたら、こっちとしてもわりと嬉しいんだよね)


 稼ぎはまだまだ少ないので食材はお粗末、調理器具もボロボロ。その中で試行錯誤と共に料理をする事にある種のやりがいを感じる。そういう性格なんだろう。


 そして、目の前には笑顔の相棒。うん、悪くない。


「どした? 早く食おうぜ」

「ああ……そうだね」


 直後に控えている、もう200ほど繰り返してきた『儀式』の為に。


 二人は目の前に並ぶにかぶりつくのだった――――




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