第49話 文香の、悲惨な最後
俺は今の気持ちを全力で伝える。
ルナは泣きながら、今の気持ちをこたえた。
「し、信一君。ありがとう。あなたがいるから、私頑張れる」
良かった。その言葉が聞きたかった。
「な、なんでイチャイチャしているのよ。なんで正気を取り戻しているのよ!」
文香か、周囲を見ると、俺とルナを包んでいた竜巻はすでになくなっている。ルナを取りっ戻すのに、夢中で気が付かなかった。
「──ということだ。ルナは、お前たちの味方にはならない。残念だったな」
すると文香はうつむき始め、涙をぽろぽろと流し始める。悔しくてたまらず歯ぎしりをしている
「なによ──、なによ──、他の女ばっかり。愛想がよかったり、独占欲を駆り立てるようなやつバッカ仲間にして!」
「あー? お前がルナを不幸にしたんだろ!」
突っかかろうとするダルクの肩を掴み、やめさせる。これ以上言ってもどうにもならないと理解しているからだ。
わかっている。文香は完ぺき人間だが、器用な存在ではない。如何周囲に溶け込めるか、人気を得られるか、一人でいるときはいつも悩んでいる。
そして必死になって周囲に人気者で完ぺき人間である自分を演出しようとしていた。
意外と努力家かな一面もあるのだ。
文香は泣きじゃくりながら、じたばたと悪あがきをしてさけぶ。
「ずるいじゃないずるいじゃない! 私はメルアみたいに明るい人気者にはなれない、ダルクみたいに ルナみたいに黙って人知れず戦うタイプじゃない。声を上げれば、必ずめんどくさい扱いされる。だから私は愛してくれない」
たしかに文香の不器用さは俺も知っている。
「何よ。みんな私の上っ面ばかりほめたたえて、誰も私のことを分かってくれないじゃない!」
文香が叫んでいると、メルアが何かに気付く。
「信一君。空!」
メルアの声の通り空を見てみると、殺気より真っ黒い雲が突如現れた。その雲はとぐろを巻くように1点に集中し始め、その場所が強く光りだした。
そしてそこから黒い光の柱が地上に向かって出現し、その場所から1人の人物が現れた。
「お前は、誰だ──」
その人物は、真っ黒い光に包まれた騎士という雰囲気だが、圧倒的な存在感と魔力を持っているのがわかる。顔は、鉄仮面に包まれていてよくわからない。
「お前、魔王だろ──」
ダルクが横から叫ぶ。彼女の勘が教えているのだろう。目の前の人物は表情が見えていないが余裕ぶっているのがわかる。
「貴様、いい直感をしているな」
本当だったのか。マジかよ、危ない心材だから、ここで消そうってことか。俺たちはもうボロボロ、いくらなんでも魔王と戦える自信はない。
するとさっきまで倒れこんでいた文香がはいずりながら魔王へと接近する。まるで水を得た魚のようだ。
「今度こそあいつらをぶっ殺してやるから。もう私を愛してくれない信一なんて嫌い。私から信一を奪ったアイツらが憎い。だから、強い力を頂戴!」
「──そうか」
魔王は感情が感じられない、冷たい声色で言葉に答えた。
「やったわ。さすがは魔王、使えるわね。素晴らしいじゃない! 早速その力を頂戴。それで、私を裏切ったこいつらをぶっ殺して血の海にしてやるんだから!」
その言葉にメルアもダルクも、俺も恐怖で一歩引いてしまう。俺たちはルナを助けるために全力を使い切った。
ここでそんな力を使われたらなすすべなんてない。
「わかった」
そう言って魔王は右手を天に向かって上げると、その手に大きな槍が出現した。
「へぇ~、強そうな武器じゃない。それであいつらを肉ミンチに……」
「──そうだな」
そして魔王はその槍に力を込め──。
槍を文香の体に何の躊躇もなく突き刺した。すでに戦うことができず、魔力がない文香はなすすべがなく肉体を直接貫く。
血を吐き出しながら倒れこみ、かすれたような声で魔王に言葉を返していく。
「何で……、私を──」
「馬鹿め、貴様は負けたのだ。おまけに貴様は金や強大な力を餌に簡単に裏切る。ということは俺たちから裏切る可能性だってあるということだ。そんな奴は、生かしておくはけにはいかない。秘密情報を売られたりしたら、被害を被るしな」
まあ、考えられる結果だ。目先の小銭のために裏切りをする奴の末路だ。誰からも信用がなくなり、始末される。
彼女の亡骸を見て俺は考える。
しかし、最後に魔王軍に入って、自分の欲望のためにみんなを裏切り、傷つけたのは事実だ。
確かに何かを伝えようとすると俺に暴力ばかりふるっていた。
しかし、メルアだって、ダルクだって、ルナだって、最初っから恵まれていた人生を送っていたわけじゃなかった。
メルアは、落ち込んでいた自分を励ましてくれた。周囲から裏切り者扱いされても、最後まで彼らを責めなかった。
ダルクは、俺の言葉に答えてくれた。両親を失った怒りよりも、同じ境遇を持った子供たちを救うことを選んだ。
ルナは、魔王軍の力をもったという人生に、立ち向かった。最後までその力に屈せず、戦い続け、最後にはその過酷な運命を断ち切った。
不器用でも、少しずつ俺たちに歩み寄ろうと努力をしていたら。
周囲の感情を考えようと努力していたら、こんな悲惨な最後にはならなかったのかもしれない。
何かが変わったのかもしれない。
まあ、時すでに遅しではあるが。
メルア達も、文香の最後を見て愕然としている。メルアとルナに至っては、顔が青ざまているのがわかる。
「それで、俺たちも始末する気かよ──」
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