第48話 お前には俺がついている


「やめなよ文香ちゃん。もう勝負はついて──」


 メルアの助け舟を、文香は当然のごとく蹴飛ばす。


「確かにあんたたちは強いわ。4人がそろった時の結束力とチームワークは見事なものだわ。 私もさすがにあれに勝てるとは思えないわ。そう、4人の時はね──」


 4人という単語を強調する文香。間違いない。何か矢てくる。


「じゃあ、もしその1人がこっちのなったとしたら?」


 邪険な笑みを浮かべながらの文香の言葉。それに俺は一つの悪夢がよみがえる。まさか──。


 俺はすぐにルナの方向を見る。


「うっ、うっ、うあああああああああああああああああ」


 ルナがいきなり苦しみだし、頭を抱えうずくまる。


「ルナちゃん。大丈夫?」


 慌ててメルアとダルクも彼女の元へ近づく。


「ルナちゃん。これからは私の下僕として、がんばってね」


「うあっ……、あっ、あっ」


 最初は助けを求めるように大声を出していたが、次第にその声はかすれていき、もがき苦しむ動きも弱くなりだし、倒れこんでしまう。


 俺は慌てて彼女の体を起こし、その瞳を見る。


 彼女の意識が遠くなっているのがわかる。ルナのこの特性は、ギルドでも聞いた。



 ルナの表情が恐怖に染まる。体が自分の物じゃなくなっていく感覚。


 今まででもそうだった。何度も、逆らい、抵抗した。結局は無駄だった。そのたびに、自分の知らないところで人々を傷つけた。


 それを見た周囲は、彼女を忌み嫌い、避けるようになった。


 両親からも距離を置かれ、孤立したルナ。


 そしてようやく見つけた俺たちという親友。しかし、それでも自らの運命には酒らえず、よりにもよってその前で魔王軍の力が発動してしまう。


「ふざけるな。ルナを、そんな目には合わあせない。必ず、取り戻してやる!」


 その想いをあざ笑うかのように彼女の体から邪悪な力が解き放たれ、俺たちは数メートルほど吹き飛ばされてしまう。


 ルナの肉体は真黒に光だし、その肉体を中心に灰色の空気でできた竜巻が生じ始めた。


「これで完全にルナちゃんの精神は私たちの物。二度とあなたたちとお友達になることはないわ」




 ダルクとメルアは全ての魔力を俺に供給する。感じるぜ、2人から送られてくる強力な力。頑張れ、絶対にルナを救ってほしいというメッセージがこれでもかというくらい強く伝わってくる。


「2人とも、ありがとう。絶対にルナを救って見せるよ」


「信一君。頑張って!」


「頑張ってこい。信一」



 2人の強い掛け声、ありがとう。絶対に救って見せるよ。


 そして俺は再びルナと相対する。その魔力の強さに、つい逃げ出したくなってしまう。

 けど、逃げるわけにはいかない。やるしかない──。



 そう覚悟した後、俺はルナの元へと飛び込んでいく。


「待ってろルナ、今助けてやるからな!」


 そして飛び込んだ先にあるのは現実だ。

 すさまじい逆風が俺に向かって襲い掛かる。


 少しでも気持ちが離れればたちまちその暴風によって体が後ろに吹き飛んで、ルナは完全に魔王軍の存在になってしまうだろう。


 そんなことは、絶対にさせない。俺は受け取った魔力を全開にして、嵐の中を進んでいく。

 俺と、ルナの未来を阻んでいる強い嵐を、一歩一歩かき分けて進む。


 途中、何度かつよい風に足を取られそうになるが、何とか踏ん張って体を抑える。大丈夫、メルアとダルクの力があるから、この程度では負けない。


 俺は苦戦しながらもなんとかルナの元にたどり着く。彼女の眼、焦点はなく、うつろで輝きがない。


 彼女の意志がないのは明白だ。いや、戦っているんだ。精神の中で、魔王になるのに必死に抵抗しているのがわかる。

 けど、現実は残酷だ。彼女1人の力では、精神がのっとられてしまうのは時間の問題だろう。

 そんなこと、絶対にさせない。


 俺はすぐに彼女の元に駆け寄り、肩に触れようとする。メルアとダルク、そして俺の力を込めながら。すると──。


 バチッ。バチバチバチバチッ!


 触れようとした部分から、まるで電流の様にルナの魔力が猛反発してきたのだ。


 まるで、ルナに悪霊の様に取りついている魔王軍の力が断末魔の叫びをあげているように──。


「この、ルナを狂わせてきた悪霊みたいね力め、いい機会だ。ルナを解放してやる」


 俺はその力に負けないように俺が持っている力、メルアとダルクから受け取った力を

 全てつぎ込む。


 ルナの人生を狂わせてきた魔王軍の力という敵を、力づくで吹き飛ばすように。

 強い抵抗、絶対に出ていくかという強い意志を感じる。ふざけるな出ていくんだよお前は。お前に、彼女の幸せを邪魔する権利なんて、どこにもないんだ。


 たしかにその抵抗は強い。それでも前へ、吹き飛びそうになる体を踏ん張り前へ、彼女の不幸な運命を乗り越え、その先へ──。



 パッ──。


 そして俺の右手がルナの左肩に触れる。その瞬間、彼女を包んでいた邪悪な力は断末魔の声を上げる。


 グオォォォォォッッ──。ギャァァァァァァァァァッ!!


 その力は苦しみもがきながらその力は次第に小さくなり、最後には跡形もなく消滅していった。


 そして──。


「──あっ」


 ルナの瞳に光が宿り始めた。良かった、意識を取り戻したんだ。

 ルナは周囲の状況を見る。そして今まで自分が何をしていたのかをすぐに理解した。


「また私、力に乗っ取られて──」


 やめてくれ、ルナは何もしていない。しかし、罪悪感を全身に感じた彼女は悲しみの感情を感じ始め、その瞳から涙をぽろぽろと出し始める。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい」


「もういい、やめろ!」


 ルナの言葉を遮り、俺は彼女をぎゅっと抱きしめる。彼女の悲しみをいやす様に、吹き飛ばすように強く。


「大丈夫だ。お前には俺がついている。お前は一人じゃない。俺たちがついている」


 ルナの瞳に輝きがともり始める。涙を抑えきれず、俺の体をぎゅっと抱きしめている


「だから、安心してほしい──。俺たちが、守ってあげるから」


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