第34話 自分の人生を、歩もう
あれから数日が過ぎた。
午後、ちょっと時間が空いたのでメルアと一緒に買い物をする。
先日のデートのこともあり、楽しい会話をしながら楽しい時間を過ごす。
まだ、会話はたどたどしいが、生活のことや、周囲のことをよく話した。
彼女との会話は、あっという間で、とても楽しい。
そんな会話をしながら食器や食料などを買っているうちに夕方になる。
いつもの分かれ道──。
「じゃあね、信一君。また明日ね!」
「そうだね。メルア」
お別れ。また明日、会いたいな──。
そして、帰り道に視線を向けるとそこにいた光景、正確には人物の姿にぞっとしてしまった。
民家の壁に寄りかかっているその少女。
動物のような小柄な体型。サラサラの金髪ヘア。透き通った瞳。柔らかくきれいなほっぺ。
「文香、何の用だ? ガムランの所にでも行けよ」
「あのクズですか? 振ってやりましたよ。当たり前じゃないですか。あんなナルシスト全開の奴、一緒にいるだけで虫唾が走ります」
にっこりと今までにないくらいの笑顔を浮かべながら。俺に近寄ってくる。
「っていうかこんな夕方まで何をやっていたの? あのクソ女と寝てたの? ──て無視して通過していくとかどういう態度なの? ありえなくない?」
何だ。赤の他人が偉そうにべらべらと──。俺は文香を無視して教会へ帰る。
マジかよ。まさかこんなところで再開するなんて──。
しかし、あそこまで嫌っていたはずなのに、どうしてストーカーともいえるような行動をとれるんだ?
そんな奴、俺は友達はおろか視界に入れることすら拒絶するレベルだ。
しかし、何で文香は俺にここまでこだわりを持つのだろうか。
「俺が欠陥品のゴミ人間だから、仕方なく付き合ってあげてるのよ」とか言っていたくせに。
あと考えられるのは、俺を「ストレス解消の道具」だと考えていて、そのおもちゃである俺を失いたくないという線──。
そんな扱いは、絶対にごめんだ。ここはきっぱりと言おう!
「視界に入れたくないくらい大嫌いだ。必要に付きまとわれても困る。どっかに行ってくれ」
「つまり、この文香様と別れたいとか抜かしているんですか?」
明らかなつくり笑顔。目には殺気がこれでもかというくらいわいている。
「その通りだ。俺は、世界で1番文香のことが嫌いだ。交際はおろか、同じ空気を吸うのも、一緒の時間を過ごすのも嫌だ。お前の顔を見ているだけで吐き気がする、」
「私と別れるなんてしたら、信一君は産業廃棄物の欠陥品、ゴミ以下ですよ!」
「お前といる時間の方が、俺にとっては産業廃棄物のゴミ以下だった」
すると文香は、俺に同情するような目を向ける。
「私、信一君に動揺します。今まで、持てないし、人気もない陰キャだった信一君。たまたま運よく活躍して、人気者になったことで身の程が理解できなくなって天狗になっちゃったんですね。本当に愚かでゴミ、ダメ人間ですよね──。まあ、そんな信一君だからこそ、この私が必要なんですけれどね」
ふざけるな。俺だって、寄りついてきたやつすすべて手放しで信じ込んでいるわけではない。俺だってそこまでお花畑な人間ではない。
けれど、心の底から嬉しかった。俺に好意的に接してくれるのが。
特に、メルアだ。
明るくて、元気で、それでいて俺のことを想ってくれている。
たくさん、勇気と元気をもらった。
メルアがあそこまで思ってくれていたことが本当にうれしかったんだ。
だから、その分、もらったものを返したかった。確かに完ぺきとはいかないけれど、俺だって彼女のために、みんなのために頑張りたいと思っている。
全員、罵倒ばかりしてきた貴様とは大違いだ。
「信一君はね、ゴミで欠陥品の産業廃棄物なの。だから私が全部支配して指示を出してあげていたの。信一君の無能な行動で私はよくイライラして殺してやりたい衝動に駆られていたのよ。地面に頭がめり込むまで土下座して私に謝りなさい! 信一君の無能な行動で私がイライラするなんて日常茶飯事なのよ。それを私が女神のような慈悲深い優しさで許してあげているの。さあ、早く土下座して謝ってください!」
ふざけるな、さんざん暴力を振って、罵倒しておいて、何て言い草だ。俺はもう、貴様の言いなりになんかならない!
「それは、世界が滅んだってあり得ない。俺はお前に対して、悪いと思ったことは1度もない」
「ハァ?」
「今の言葉を聞いて、やっぱりと思った。俺にとって文香は人生の足かせだたって。いらない──! 俺にとってお前を一言で表した言葉がそれだ!」
文香は強くショックを受けたようで、表情を固まらせてしまう。彼女の心を表わす様に醜悪にゆがんだ表情。はらわたが煮えくり返っているのがわかる。
「もういいわ。心の底から腹立った! 信一みたいなダメ人間、私の方からお断りよ。もう絶対に許さないわ」
「これで意見が一致したな。もうこうして一緒にいる必要はない。互いに幸せだな! やったぜ」
俺はホッと胸をなでおろす。ようやく人生の重荷がなくなったんだと。
文香はどこか不満そうに、俺をにらみつける。
「じゃあな、俺は教会に戻るから」
そして俺はこの場から立ち去ろうとする。文香は両手を強く握り、ムキになったようにして」叫ぶ。
「本当にいいのね。もう知らない。後になってやっぱり文香様が欲しいって泣きついてきても、私足蹴りにして突き放しちゃうからね!」
そんなときは永遠にないから。文香は早足でこの場を去っていく。
その姿は、悔しくてたまらないという感じだった。
俺は、引き留めなんてしない。教会へと歩を進める。
まあ、文香が俺と別れることを認めてくれたのはよかった。
これからは、自分の人生を歩もう。
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