ネフィリムフィア編
第35話 王都からの来客
教会に帰ると、長身で紫のコートを纏った人がいた。確かあれは、ギルドマスターのジルヴィーさんだ。
何かあったのかな?
俺は買い物袋を片手に、早足になり、教会の入口へ。
「ジルヴィーさん。どうしたんですか?」
俺の声に、ジルヴィーさんが振り向くと、彼は若干深刻そうな表情で俺に話しかけてくる。
何かあったのかな。また魔王軍の襲来か?
「王都にいるギルド協会の役員の人が来ているんです。重大な頼みがあると言って明日冒険者たちを集めるように指示があったんです」
「ええっ! 王都からお偉いさんが──、それって大事なことなんじゃないの?」
教会の子供の一人が大げさに騒ぐ。
確かにそうだ。王都とはここから馬車で一週間ほどの道のりの先にある、ここ「ローラシア王国」の首都、ネフィリムフィアのことだ。
政治、交通、物流の中心地でもあり、この国のギルドの本部もそこにある。そこの役員がはるばる来るということはよほど重大なようがあるのだろう。
「それで、その人はなんて言っているんだ?」
「王都で魔王軍に対する重要な問題が発生した。返答次第ではこのギルドに大量の報奨金を渡すという噂もあるんだってよ」
ジルヴィーさんは困った表情で俺に語り掛ける。
「つまり誰か王都に来てほしいってことかな?」
「わからん。まあ、その線も十分にあると思うがな──。とにかく、明日の正午ギルドに来てくれるか? そこで話は分かると思う」
明日の正午か。特に用事はないし、行ってみるか。
「わかりました。明日の正午にギルドですね。行かさていただきます」
俺がそう了承すると、教会の奥から一人の少女が、好奇心からか嗅ぎつけて出てくる。
ダルクだ。両手を頭の上に置き楽しそうなものを見つけた表情だ。
「おー、なんか面白そうだな。俺も行かせてくれよ」
「わかったよ。けど、遊びじゃないんだ。礼儀とか気を付けてくれよ」
ダメと言ったってついてくるだろう。それに、もう彼女は感情に任せてむやみに突っ走ったりしない。
ガムランみたいに、よほどのクソ野郎じゃなければ手を出したりしないだろう。
ジルヴィーさんも、安心したような表情で、この場を去ろうとする。
「了解した。では、明日は頼むよ」
明日。王都からのギルドのお偉いさんが、はるばるこの村にやってくる。どんなことが待っているのだろうか。
俺は、子供たちの夕飯の支度をしながらそんなことを考えていた。
そして翌日。子供たちの朝ごはんを作って、家事を終えたらダルクと一緒にギルドへ直行。
ギルドには、他の冒険者たちも呼ばれたらしく、実力のある村の冒険者達がこのギルドの周辺に集まっている。
「こんにちは、信一君」
「こんにちは、メルア。メルアもギルドに呼ばれたの?」
「うん。夜、食器を片付けていたら、ギルドの人が来て、この時間に来てほしいって」
なるほど、昨日のうちに冒険者に声をかけていたということか──。
すると、ギルドの事務室の扉が開き、一人の人物が出てくる。
キィィィィィィ。
ジルヴィーさんだ。冒険者の1人が不機嫌そうに話しかける。
「なんだよ、ジルヴィー。何の用だよ」
「急な用事で申し訳ない。ここにいるのはこのオラデューヌ村でも、有数の冒険者たち。お前たちに集まってもらったのはほかでもない。王都からギルドの役員の肩が来ている。紹介する。シェルムさんだ」
そしてジルヴィーさんは事務所の中に顔を出し、誰かを呼ぶ。その人物が、おそらく王都から来た人なのだろう。
ドアからその人物が出て来た。
一度頭を下げたあと、丁寧そうな口調で話しかけた。
青い髪で、胸元を大きく露出したボンテージのお姉さん。とってもセクシーで男性冒険者のほとんどが、その豊かな胸元に視線を集中させてしまっている。
「みなさん。私のために、集まってありがとうございます。私が王都ネフィリムフィアから来たシェルムと申します」
シェルムさんか、偉い人というから、年配で、経験深そうな人だと思ったから意外だな……。
そして、シェルムさんは深刻そうな表情になり、冒険者たちに語り掛ける。
「私が、王都からはるばるこの地に来た理由は言うまでもありません。私は、あなたたちオラデューヌ村の冒険者がずっと魔王軍と戦っていたのを知っています。そんなあなたたちの力が欲しいのです」
「力、何だよ。俺たち、特別な力なんて持ってないぞ」
「こら、ダルク。よさないか」
俺がダルクをたしなめると、シェルムさんが一瞬だけ切なそうな目になる。そしてそれを振り払うかのように強いまなざしになって、話を進める。
「簡潔に説明しますと、とある1人の少女を救ってほしいのです」
その言葉に、冒険者たちがそわそわとし始める。
「少女を救ってほしい。魔王軍に人質に取られているってことか?」
「そういう事ではありません。私の友人にルナという少女がいます。彼女は魔王軍の力を生まれつき持っているのです。しかし彼女は生まれつき正義感が強く、魔王軍に入る気は毛頭ありません」
「じゃあ問題ねぇんじゃねえのか? ほっとけばいいだろ」
ダルクがふーんと言いたげな表情で答える。確かにそれだけならダルクの言う通りなのだが、そう単純ではないようだ。
「しかし、彼女に強力な力があるのは事実です。今までにも、魔王軍の人間がルナ そして、魔王軍の力には、それを使うのを容易にするための人格が用意されているのです」
「人格。どういうことだ?」
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