第29話 ガムランの、哀れな末路
あんな風に誘ってくれた彼女。断れるわけがない。
確かに。以前の世界で文香とデートをしたことはあった。
しかしそれはデートという名の雑用係。
彼女の気分で振り回され、罵倒され、時には、どうでもいい彼女の服をかわされたりした。
その時に俺にかけてきた言葉を俺は今でも忘れない。
「このお金、永遠に借りておくだけよ」
いつも顔色を窺ってばかりで、彼女の地雷を踏まないかびくびくしながら文香の隣を歩いていた。
あれは、文香のサンドバック役兼、雑用係だ。
けれど、メルアは違う。
文香のように、一方的にしゃべりたいことを押し付けるのではなく、まともなコミュニケーションだ。
気が付けば、日が暮れるまでずっと会話を続けていた。
そして最後はデートへのお誘い。その言葉に俺はびくっとして驚いてしまった。
それに、メルアとの会話は、今まで生きてきた中でどんな会話よりも楽しいものだった。
そんな彼女とのデート、失敗するわけにはいかない。
絶対、2人にとって一生忘れないデートにしてみせる。
そんな決意をして、俺は教会へ帰った。
一方。敗北を喫したガムラン。
周囲には誰もいない。脳裏によぎる、惨敗したときのあの姿。
周囲が俺をたたえ、バカにされる自分。
(バ、バカな……。この私が、あんなぱっとしないやつに敗北するなど──)
受け入れられない現実が脳裏をよぎる。
ザッザッ……。
誰かがこっちにやってくる。不様な姿、見せるわけにはいかないと逃げようとするが、身体が言うことを気かない。
「ガムラン。勝負、全部見ていたわ」
文香だった。無表情で、さげすむような目つき。
ガムランが地を這いながら、文香の所に這いよる。許してもらおうと、そして済まなそうな顔をしながら──。
「ごめん、今回は勝てなくて。次は必ず勝つ。だk──」
「次? 次なんてあるわけないじゃない。何勘違いしているのよ!」
そして右足に魔力を込め、ガムランを思いっきり蹴り飛ばす。
ガムランの言葉が終わらないうちに、彼の体を何度も何度も蹴っ飛ばす。
「はぁ? 冗談? なんであんたなんかと付き合わなくちゃいけないわけ??」
「えっ? ちょっと待ってくれ! 付き合ってくれるといったのか君──」
「虫唾が走るんですけどぉ? そのナルシスト全開な態度、素振り。必死に耐えるのがつらかったくらいよ」
何度も蹴っ飛ばし、罵詈雑言の嵐。
気付けば彼の体はボロボロ。そして最後に今までの無いくらいの強さで蹴っ飛ばし、ガムランは地面に倒れこむ。
「あんたはね、所詮私が利用していただけなの。もう用済みなの。あんただ傷つこうと痛がろうと知ったことじゃないから!」
「ど、どういうことだ? 付き合ってほしいといったのはお前だろ!」
「あんな戯言を本気で信じちゃうわけ? どれだけ頭お花畑なのよ。あんたみたいな気持ち悪いナルシスト君がこの私の彼氏になれるわけないじゃない。脳みそが筋肉でできて言うんじゃないの?」
「ふざけるな。どれだけ貴様に貢いで、大事にしたと思っているんだ。裏切るのか貴様ァ──!」
「本当に頭おかしいわねあんた。そっちが勝手にやってるんでしょ。いるわよねぇ金をつぎ込めば女と手に入れらると思ってる男って。本当にバカで浅はかね。無価値で、ゴミ、産廃、汚物。醜態をさらし続けるのもいい加減にしなさいよ!」
その言葉を聞くだけで誰もが引いてしまうであろう罵詈雑言。周囲に誰もいなければ誰も言えるはずがない。
そして、地面に倒れこんでいるガムランを置き去りにして、文香はこの場所を去っていく。
ガムランは、文香のあまりの態度の変わりように圧倒され、しばらくそこに倒れこんでしまった。
まあ、敵ながら哀れな奴だ。
それからの彼の処遇は、悲惨の一言だった。周囲からの信用を失い、裏切った罰として、多額の罰金を科せられた。
具体的に言うと、全財産のほとんどだ。
彼と手を組む者はいなくなり、冒険者としての資格も最低ランクまで下げられた。
追放したら、何をされるかわからないということで、借金をクエストで返すことを条件に村には住んでいる。
……しかし日の当たらない仕事しか与えられず、日陰者としての人生を送る羽目になったのである。
そして俺は一晩、デートのことを考えた。教会の女の子たちにデートのことを聞いてみる。何かヒントがあるかもしれない。
夕食のシチューを食べながら、女の子たちに聞いてみた。「デートをするなら、どんなことをして、エスコートされたい?」って
「デート? 適当に食い物食わせた後、ベッドへ行って襲っちまえばいいだろ!? それか睡眠薬盛るとか」
──ダルクには、期待していない。すると、隣にいる三つ編みをした女の子がうっとりした表情で話しかける。
「やっぱり、かわいい服とか、おいしいランチとか、手をつなぐのもいいなぁ」
まあ、王道だな。参考になる。別のロングヘアーの子も答えてくれる。
「あとは、星空を見ながら、2人っきりとか、憧れちゃうかな──」
おおっ、ロマンチックだな──。ぜひやってみるか。
「それでさー、イケメンの王子様に口説かれたら、私ついていっちゃうかも~~」
──それは無理だ。生まれつき、顔は変えられないし、口説こうとしたって噛み噛みで雰囲気が台無しになってしまうだろう。
まあ、参考にして頑張ってみるか。
そして家事を終え、就寝時間。子供たちと一緒に大きい布団で寝る。布団につきながら俺は──、明日のデートのことを。考える。
絶対に成功させようと……。
考え、考えて──。
良く寝られなかった。
あくびをしながら布団を出る。朝食を子供たちと一緒に作り、家の掃除。
それが終わり、日が高くなると、教会を出る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます