第28話 メルア。異性として、とてもかわいい
でも、それだけじゃない。彼女の、繊細で、優しさを全面的に出した、柔らかい表情。
本当に、異性として、素敵で──かわいい。
そのギャップに戸惑うばかりだ
「か、買いかぶりすぎだよ」
俺がそういうと、メルアは顔を不満そうに膨れさせ始める。
「もう──、信一君。おかしいって思っているでしょ。自分がそんな魅力的じゃないって思っているでしょ?」
「な、なんでわかるの?」
「顔に書いてある。すぐわかるよこんなの!」
メルアの前で、下手な嘘はつけないな。だって仕方ないだろう。
生まれてこの方、羨望のまなざしでみんなのヒーローになることなんてなかった。
文香には罵倒されてばかり。そんな毎日を過ごしてきた俺に、突然こんな使いをされても、裏があるんじゃないかとか、どうしても考えてしまう。
だから、手放しで舞い上がることができないのだ。
俺はそんな感情を、メルアに打ち明ける。
心の優しい彼女は、それを聞いて戸惑ってしまった。
「ご、ごめんね信一君……」
彼女の申し訳なさそうな顔。それを見て気付いた。
卑屈になる必要なんてどこにもない。俺が魔王軍やガムランを倒したのは嘘ではなく真実だ。もう文香はいない、俺が思うままにやればいい。
何より、彼女にそんな思いをさせたくない。
そんな気持ちが俺の心を支配する。俺はパッと彼女の両手を強く握る。
メルアは予想もしなかったせいか顔を真っ赤にして黙りこくってしまう。
「ご、ごめん。俺が卑屈になってた。こ、これからは前向きに考えるよ──。ごめん!」
か、かんじゃった。文香以外の同世代の女の子と、こんな話をするのは初めてだ。明らかに経験不足を露呈。せっかく元気づけようと思ったのに……。台無しだ。
メルアは、ぷくっと顔を膨らませている。今の口調が煮え切らない態度に見えたのだろう。
そして今度は俺の両手をぎゅっと握り返す。
「決めた。明日私とデートしよ!」
「えっ? デ、デ、デ、デート!?」
デートってまさか、あの男女でお出かけをしたり、いろいろな店を巡ったりするあれか?
まともな女性とのデート、生まれて初めてだ。
ダルクだって、デートというよりは、彼女を元気づけるために連れ添ったという感じだし──。
「うん、私とデート。私が証明してあげる。信一君がかっこいいってこと!」
俺がかっこいい? 絶対おせじだろ。
「信一君。信じられないって思ってるでしょ!」
「い、いや……、その──」
「顔に出てる!」
メルアがぷくっと顔を膨らませて指摘する。彼女の前で、ウソはつけないな……。
「私が教えてあげる。信一君は、誰からも愛されない、人間なんかじゃないってこと!」
俺は、初めての経験にどう対処すればわからず、なし崩し的にデートの決定がされてしまう。
「じゃあ、明日はよろしくね。明日のデート。楽しみにしてるから、がっかりさせないでよね!」
仕方ない。明日はデートだ。生まれて初めての。
そして、一つの疑問が俺の脳裏をよぎる。
「明日のデート、どうすればいいんだ?」
どうやってリードすればいいのか。俺がエスコートしてリードするべきなのか。
どうしよう、わからないことだらけだ。どうするか、幸いまだメルアは目の前にいる。
「無理して、かっこつけた挙句失敗するより、メルアと話した方がいいか……」
ちょっとカッコよくないけど、仕方がない。
「あの──、さ。俺、女の子とまともにデートをするのは初めてなんだよね。だから、教えてほしいんだけれどいいかな?」
するとメルアは申し訳なさそうに手を合わせて言葉を返す。
「あ──。ご、ごめん。私も……、男の人とデートするの、初めてなんだ」
「え──、なんか意外だな。本当なの?」
こんなにかわいくて、明るいのに?
とたんにメルアは顔を膨れさせて反論する。
「わ、私そんな遊んでばっかの女じゃないもん!」
「ご、ごめん。そんなつもりじゃ」
メルア笑顔がとてもかわいいし、男受けしそうだから彼氏と書いてもおかしくないと思ったんだけどな。ちょっと怒られちゃった。
しかし、それなら責任重大だな……。
そんなことを考えていると、メルアはフッと笑みを見せた後、両手をもじもじとさせる。
「じゃあ、私、信一君が楽しんでもらえるように──、頑張るね」
そして上目遣いでのその言葉。俺も頑張らないとという気分になる。
その後も、俺にしてはありえないくらい話が弾む。教会のことや、子供の世話のこと、家事のこと。
あまりの楽しさに、俺とメルアは時間を忘れてしまい何時間も話し込んでしまう。
かけがえのない時間話終わりをつげ、俺は子供たちの所に帰る。
「明日はよろしくね。バイバイ、信一君!」
メルアの屈託のない笑顔。それは今まで見せたどんな表情よりも、メルアに似合っていて素敵なものだ。
本当に……、かわいい。
心の底から、本心がそう感じた。
メルアのことを考えてだけで、心がドキドキする。頭の中がメルアのことでいっぱいになってしまう。
メルアの笑顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
俺は、異性を好きになることや、恋ということをよく知らない。でも、メルアが俺を慕ってくれているのはよくわかる。
あんな風に誘ってくれた彼女。断れるわけがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます