第27話 メルアの、最高の笑顔

 俺はとっさに後方に身を投げ、左右からくる攻撃をかわす。


「信一君。後ろ、危ない!」


 メルアの叫び通り、後方の火の玉が俺の直前まで迫る。

 俺は地面をけり、横へ、そして体をひねって攻撃をかわす。


「信一め、なかなかやるではないか」


 俺は大きく剣を構えなおした。すると、ガムランが再び何発もの火の玉を繰り出してくる。


「だかこれはどうかな?」


 火の玉はさっきより大きく、確実に威力も上がっているだろう。

 相変わらず、自分が王様であるかのようなでかい態度。



 スキだらけだぜ!


「じゃあ俺も、行かせてもらうぜ!」


 そして俺は、ガムラン相手に一気に駆け出す。

 身を低くかがめ、両足に魔力を込めて、猛然と突っ込んでいく。


「なんだと──!? 馬鹿め、俺様の炎で、燃え尽きるといい!」


 ガムランは意表を突かれたようで、対応がわずかに遅れる。


 慌てて火の玉を様々な方向から俺の方に向けていく。


 ──が、どこか俺の速度についていけていない。


 俺はまず、左右から来た攻撃を舞うようにしてかわしていく。

 そして、──気が付く。ガムランがにやりと笑っていることに。


「逃げ場など、与えん!」


 何と四方八方から火の玉を繰り出してきたのだ。


「なんだあれ、よけきれるのかよ!」


「信一君。大丈夫?」


 ダルクとメルアの悲鳴が聞こえる。気にするな、問題ない。


 瞬時に呼吸を整え、攻撃の火の玉を見据える。


「これで勝負はついた。貴様がこの俺様に勝つことなど、ありえんのだよ!」


 襲ってくる火の玉の向こうからそんな言葉が出てくるが、彼の姿は見えない。

 そして周囲から襲ってくる火の玉。


 俺は大きく体をひねり、回転するように火の玉をなぎ払う。

 さらに、立ち止まった後、逆方向にもう1回転。


 俺を襲ってきた火の玉に2発の攻撃が走り、火の玉は全て消滅。


 そして俺の反撃が始まる。ガムランに向かって1直線に走り、急接近。

 一気に剣を振り下ろす。ガムランはその攻撃を受け止めようとする。


 ──が、これは俺が仕掛けた罠だ。


 俺はその受け止めを、身体ごと回転させて受け流し、その勢いを利用して一気にガムランに接近。


 そして俺は無防備になったガムランに剣を振り上げる。ガムランは無理やり剣を引いて、それを受けようとする。


 俺は剣を手放す。予想もつかなかった行動にガムランは言葉を失う。これで勝負は終わりだ!


 くるりと回転してガムランの剣をよけた後、彼のみぞおちを思いっきりぶん殴る。

 ガムランの肉体はそのまま吹き飛び、その先にあった木に衝突。


 その衝撃で気を失い、ガムランは力なくその場に倒れる。


「これで勝負あったろ。どうだ!」


 まさかの結果に、周囲は沈黙。そして数秒立った後、叫び始める。


「おい、ガムランが負けたぞ。あいつやっぱりつえーじゃねぇか」


「本当だ。すごいぞ信一!」


 賛美の嵐。こんなの生まれて初めてだ──。


 ドサッ──。ドサッ──!


 背後から2人ほど、誰かが抱きついてくる。


「信一、勝ったのかよ。すげぇな~~」


「信一君。おめでとう。本当に勝っちゃうなんて、私びっくりだよ!」


 ダルクとメルアだ。2人とも、嬉しいのはわかるけど、人前でこれはやめてくれ。恥ずかしいし、メルアに至っては……、胸が、当たってるんだよね。


 そして抱きしめられながら、視線を前方に置く。


 文香だ。驚愕して目を見開いている。言葉も出ない。そして、悔しそうにプイっと俺に背を向けてこの場を去っていった。



 周囲から褒められ、たたえられ。

 生まれた初めての経験だ。


 そして、しばらくすると、彼らもこの場所から去っていく。


「ダルクちゃん。ちょっといいかな?」


「なんだ、メルア」


「ちょっと、信一君に話があるから、ひとりで帰ってもらっていいかな?」


 その言葉にダルクは後ろを向いて、手を振りながらこう返した。


「ヤるのか。子供ができたら、俺の子分にさせてくれ」


「ちょ、ちょっと。そうじゃないよ!」


 メルアは顔を真っ赤にして向きになりながら返す。俺も、恥ずかしさを感じる。どこで覚えたんだこいつは。


 そして俺はメルアと2人っきりになる。とりあえず、これだけは言っておこう。


「とりあえず。メルアの濡れ衣は晴れた。もうお前を裏切り者なんて後ろ指を向けるやつはいないと思う」



「し、信一──、君。その……ありがとうね」




 メルアはほんのりと顔を赤くしながら言葉を返す。もじもじとした、どこかは地雷を見せるそぶり。今までの元気でキュートな雰囲気とは全く異なる。

 女の子っぽい、繊細さ、かわいらしさを全面的に出した表情。


 その表情に俺は思わずドキッとしてしまう。意外な一面。


「信一君がいなかったら。私、裏切り者のレッテルを張られていて、村に、いられなかったと思う。それを救ってくれて、本当に信一君がいてよかったって思ってる!」


「いや、あれは、メルアをのけ者にしているのが、ただ許せなかっただけで」


「そんなことないって!」


 いつも俺は、太陽のような笑顔と元気さを素敵だと感じていた。


「信一君。そういう所とても素敵だと思うよ。かっこよくて、優しくて。地味な所はあるけれど、ここぞというときは本当にひかなくて、自分の身をなげうってでも私を守ってくれた」


 でも、それだけじゃない。彼女の、繊細で、優しさを全面的に出した、柔らかい表情。

 本当に、異性として、素敵で──かわいい。


 そのギャップに戸惑うばかりだ


「か、買いかぶりすぎだよ」

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