第26話 ガムランとの、一騎打ち

 そういう言葉を発した瞬間、ヒュドラとゾドムの肉体が消える。

 これで、ひとまずこの村に平和が戻った。

 周囲の冒険者も、ほっとしているのがわかる。


「信一君。何とか、勝ったね」


 息を荒げながらのメルアの言葉。メルアは、全力を出したうえに、俺に力をくれた。本当によくやってくれたと思う。


 とりあえず2人は退治した。倒せはしなかったが、最低限ことはやった。


「あとはダルクだな」


 俺はダルクの方に視線を置く。





 一方ダルク。


「おう信一。ちょっと苦戦したけど、何とか倒したぞ?」


 ダルクは軽く息を荒げながら言葉を返す。

 彼女の背後には、数えきれないくらい、ダルクに寄って倒された「デュラハン」兵士が蒸発するようにして消滅していっている。



 メルアはにっこりとしながら、冒険者たちに手を差し伸べる。

 まあ、それが彼女のいいところでもあるんだけどね。


「ご、ごめんなさい。メルア──さんを魔王軍の裏切り者だとか言って」


「俺も、実際に疑っていたし。けど、今の戦いを見て、それは違うってのがよく分かった。すまんな」


 冒険者たちの申し訳なさそうな表情。しかし、メルアは多少引き攣らせつつも笑顔を絶やさない。


 本当に彼女は天使だ。


「もう、こいつを裏切り者なんて呼ぶなよ。次やったら、俺がぶっ飛ばすからな!」


 ダルクの過激な声。まあ、今回は許してやろう。



「待て、待て待て待て待て!」


 俺の言葉に、慌てて静止をかけてくる人物が1名。

 敵に寝返ったにもかかわらず、あまりの無能っぷりに見捨てられた男、ガムランだった。


「あ、あ、あの魔王軍は俺が激戦を繰り広げていて、消耗していた。お前はその瞬間を狙い、漁夫の利を横取りしたに過ぎない。この、ヒーロー気取りが!」


 何という傲慢な言い訳だ。どう考えてもぼこぼこにされて負けていただろ。


「んなわけあるか。どう考えてもお前が負けていただろ。あれも演技だっていうのかよ!」


「と、と、と、当然だ。あれれれは、敵を油断させるための演技だった。あのまま戦いを続けていれば、勝利しているのは、讃頌されているのは私のはずだった。それを貴様が横からかすめ取ったのだ!」


 横柄な態度で、開き直る。周囲があきれ返っているのが明かる。ここまでアホな奴だったとは思わなかった。


「ガムラン、あきらめろよ。どう見てもお前の負けだ」


「そうだよ、とっとと認めたらどうだ?」


 周りが、ガムランに叫ぶ。けど、これくらいじゃ認めないだろうな。


「信一君、どうしよう」


 メルアも心配なようで、俺に耳打ちしてくる。心配するな、作戦はある。俺はメルアの耳元で言葉を返す。


「安心して。俺は負けないから」


 そして1歩前に出てガムランに話しかけた。



「わかった、それなら互いの魔力が回復した後で、互いに決闘する形で決着をつけたらどうだ? どっちが強いか、この場で決めるんだ。それなら文句ないだろ」


 俺の提案に、ガムランはにやりと笑みを浮かべて言葉を返す。


「ほう。凡人である貴様にしてはいい案ではあるな。了解だ、2日後でいい。そこで大観衆の前で決闘をしよう。そして見せつけてやる。貴様よりも、この俺の方が強くて、優秀であることを!」


 とりあえず納得したようだ。これならガムランだって、一般人だってこいつと俺、どっちが強いか理解できるだろう。


「じゃあ、2日後の正午、村の中央公園で行おう」


「了解した。せいぜい負けた時のいいわけでも考えておくんだな」


 その言葉を聞くと、俺たちはこの場を去ってギルドに行く。言い訳なら、貴様が考えているんだな。








 そして2日後、約束の中央公園。

 ガムランとの一騎打ちの場所。いつもは緑豊かな原っぱが広がる、人がそこまでいない閑静な場所というイメージだ。


 しかし、公園の中心を取り囲むように村人たちが集まっている。


 そしてその中心には俺とガムラン。


「ほう、俺から逃げずに勝負に来た勇気だけは誉めてやろう」


 ガムランのいつもの傲慢とも呼べる自信。まあ、俺がへし折ってやるんだけどな。


「まあ、御託を言うより、実力で示した方が早い。さあ、勝負と行こうぜ!」


「そうだな。貴様に」


「信一。そんな奴、ボッコボコにしてやれー」


「信一君。負けないで、頑張って!」


 後ろから聞きなれた声。ダルクとメルアだ。応援ありがとう、俺は、絶対に勝つ。そして正面に視線を置くと、ガムランの先に彼女はいた。


「頑張ってね。不様な試合になんかさせないでね!」


 文香だ。どっちに言っているのかわからない。おそらくぼかして言っているのだろう。それに気づいたガムランが、後ろを振り向き、ギッと親指を立てる


「任せろ。こんな男に、俺が負けるわけがない!」


 そして勝負が始まる。


「では俺様か、貴様か。1対1の真剣勝負。行くぞ!」


 まずは俺が一気に踏み込む。ガムランに急接近すると、自身の剣を振り下ろす。


 ガムランはそれを跳ね除ける。結構鋭く打ち込んだが、パワー自体は互角で、つばぜり合いになっても、負ける気はしない。


 すると、ガムランが距離を取り始め、叫ぶ。


「殲滅せよ・バーニング・ブラスター」


 そしてガムランの周囲から、灼熱の炎は吹き上がってくる。

 そしてそれは球状となり、こっちへ襲い掛かってくる。

 火の粉をまき散らしながら襲い来る数発の攻撃。俺は剣を構えて正面に向いて待ち受ける。


 そして俺に向かってきた火の玉を、目のも留まらぬ早さで両断。中心から真っ二つに切り裂かれた火の玉は、俺の両隣を通過して地面に落下。


 が、それを読んでいたかのように今度は左右と、背後から火の玉が俺に向かって突き進んでくる。

 退路を断ち、時間差をつけた追加攻撃か。

 さすが、あれほど大口をたたいただけあってなかなかやるな。


 俺はとっさに後方に身を投げ、左右からくる攻撃をかわす。


「信一君。後ろ、危ない!」


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