第20話 メルアを、裏切り者になんかさせない
「マジかよ。あの女、裏切り者だったのかよ」
「何アイツ、あんな明るい性格して、裏があったの?」
まずいぞ、周囲は完全にガムランの言うことを信じ切っている。いくら正論を言っても、周囲がこいつの言うことを信じてしまったらどうすることも出来ない。
「どうだ? ここにいるやつらは、俺を信じ切っているぞ」
流石、この村での実力者だけある。そこまで成果を残せていない俺より、周囲の信用は厚いってわけだ。
ここはかっこ悪いが、引くしかない。分が悪すぎる。俺はメルアの腕をぎゅっと握る。
「とりあえず、ここから引こう」
メルアは顔を赤面させて、フリーズしてしまう。
そんなメルアと一緒に、ダルクと3人でこの場をサッと出ていく。
そして俺たちはギルドを出ていく。
ギルドの近くの裏通り。人通りがいない、薄暗い場所。家屋の壁に俺たちは座り込む。
途方に暮れているメルアに、俺は力強く話しかける。
「俺は信じているよ……。メルアはそんなことしていないって。」
笑顔ではあるが、若干表情が引きつっているのが俺にはわかる
メルアは、とても人当たりがよくて周囲を大事にする。周りに気を使ったり、明るく接したりすることが本当に多い。
それゆえに周囲のために自分の感情を抑えてしまうのだ。
ふざけるな、メルアはそんなことをする奴じゃない。そう、憤慨していると、ダルクが俺の肩をツンツンする。
「ダルク、何だ?」
「あれ、文香じゃね?」
彼女が指さした先、路地裏にいるのは間違いなく文香だ。そして文香と話しているのはガムランだ。
俺たちは2人にばれないように物陰に隠れ、こっそりと2人の会話に耳を傾ける。
「作戦は、うまくいった?」
「もちろんだよ文香。ちゃんとお前が受け取って来た魔王軍の契約書にメルアの宛先を書いた。それをみんなの眼の前で見せたら全員信じ切ってくれたよ」
やっぱりそうだったのか。しかも、文香が裏にいたとは。
「まあそうよね。信一みたいな私がいなきゃ実力も知名度もないやつと、村の実力者のあんたじゃ、信用度が違うもの」
「当たり前さ。これで奴らはおしまいだ。ハハハ──」
悠長に笑っている2人。お前たち、村の人たちを裏切っている自覚あるのかよ。もう呆れてくる。するとダルクが、カチンときたのか──。
「もう頭に来た! とっちめてやる!」
そういって2人の前に出ようとする。バカ、まだ出るな。
慌ててダルクの肩を引っ張り両手で口をふさぐ。もごもご言ってるダルクに俺は耳元でささやいた。
「やめろ。いったん落ち着けダルク!」
ダルクは俺の手を離すと、小声で反論する。
「何でだよ。ぶん殴ってボッコボコにしてやろうぜ」
こいつ、暴力的で脳筋な所は全く変わっていない。
「今行ったって、「だからどうした」で終わりだ。殴ればいいってもんじゃない、メルアの無罪を証明するのが目的なんだ」
そうだ。俺たちは村の人たちにメルアの無罪を証明するのが目的だ。怒る気持ちはわかるが、ここは我慢だ。
「信一君。2人が何か言ってる」
すまんなメルア、俺は再び文香とメルアの言うことに耳を傾ける。
「んで、俺はどうすればいいんだ? 文香」
「今日の夜、魔王軍の地との国境付近で幹部たちと会う約束があるの。あんたのこと紹介するから一緒に来なさい。密約とか、貴重品の受け取りとか、いろいろあるから」
「わかった──。一緒に行けばいいんだな」
「ええ、一緒に行く必要があるから、時間になったら私があなたの家に行くわ」
「了解。それでは、俺は忙しいからこの場を去るよ。俺の文香──」
そしてガムランは投げキッスというナルシスト丸出しの行為をしてこの場を去っていった。文香も、別の道からこの場を後にする。
そして2人がいなくなると、俺は意見の確認をする。
「今日の夜、場所を抑えるぞ。いいな?」
「「うん!」」
まあ、2人とも参加するに決まってるよな。
「しかし、文香がかかわっていたとは……」
あの様子だとかかわっていたどころか、主犯になっている可能性すらある。
俺を攻撃するならまだいい。問題は攻撃の矛先をメルアに向けたことだ。
「あいつ、ひどいにもほどがある」
「いいんだよ。私が犠牲になって、それで済めば」
メルアは軽くうつむき始める。そして苦笑いをしながらそう話した。
俺はメルアの両手をぎゅっとつかむ。
「その考えはダメだ」
メルアは、その行動に驚いたのか、顔を赤面させはっと驚く。
こんな強引になるのは俺らしくない。けれど、彼女のためなら、やらなくちゃ。
俺はメルアに、自分の気持ちを伝える。
俺が聞いたことわざで、こんな言葉がある。
「一歩を譲るということは、すべてを譲るということだ」
ここで譲れば、すべて丸く収まる。これだけ譲歩すれば、相手は納得するだろう。
そんな言葉はメルアのような優しくて、正しい倫理観を持った人物同士のやり取りだから成り立っている。
今回のメルアを陥れようとしている相手は、確実にそんな人物ではない。
無実の彼女に罪を着せ、平気で傷つけようとしている人物だ。
そんな人物に、最初の1歩を譲渡したらどうなるか、決まっている。
こいつは脅せば退く相手だと考える。ドンドン無茶苦茶な要求をしてきて、メルアは下手をしたら村を追放されたり、逮捕される可能性だってある。
ふざけるな、こんなけなげな彼女を、そんな目に合わせるわけにはいかない。
「俺は、メルアを犯罪者や、裏切り者なんてレッテルを張らせたくない」
俺の強気な姿勢に、メルアはフリーズさせ、戸惑う。
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