第19話 ガムランの、出した罠

 俺たちは文香を気にも留めずに歩を進める。



 そして俺たちはギルドに到着。


「たのもー」


 メルアの冗談交じりで元気そうな掛け声。すると、他の冒険者たちが、ひそひそとしながら俺たちを見る。


 なんか不自然だな……。そんなことは気にも留めず、ダルクとメルアが早足で掲示板に視線を置く。


「どんな仕事があるのかな」


「やっぱり、強い敵をとっちめるのがいいな。顔の形が変わるくらいボッコボコにしてさぁー」


「ダルクちゃん。そんな過激なこといわないの」


 2人はワクワクしながら掲示板を眺めている。

 なぜか、俺たちを見て他の冒険者がひそひそ話している。それも、どこか避けているかのように。


「なんだよ、俺たちの顔に何かついているのか?」


 ようやくダルクはその様子に気付いたようで、不満そうに俺に話しかけてくる。


「気にするな。とりあえずクエストの内容を見てみよう」


 そして俺たちが掲示板を眺めていると、誰かがメルアの肩をツンツンと叩く。


「何~~?」


 ノリノリなメルアに話しかけるのは、長身の男性。ギルドの支配人のラングルであった。


「ちょっと話があるんだけど、いいかね」


「いいですよ」


 そしてメルアはラングルの方へ。



 そして俺とダルクの2人になった途端、男の冒険者が俺とダルクに寄ってきて、ひそひそ声で話しかける。


「おいお前たち。メルアの噂、知ってるか?」


「噂? 何かあったのか──」


 するとその男は、信じられない言葉をつぶやいた。


「メルアのやつ、魔王軍に裏切っているんだってよ」


 その言葉に俺は驚いて言葉を失う。

 まて、それは誤解だ。メルアが、そんなことをするはずがない。

 俺は必死に彼女をかばう。


「じょ、冗談だろ? なんかのデマだって」


 すると、背後から別の人間が話しかけてきた。


「いいや、デマではない。本当だ」


 二枚目で長身、金髪のイケメン。ガムランだ。自信満々な態度で、腕を組みながら話しかけてきた。

 幸か不幸か、メルアも同じタイミングで戻ってくる。


「信一君。ただいまー」


 いつもの明るい言葉使い。けど、今それどころじゃないんだよ……。

 そしてガムランがピッとメルアを指さす。


「メルア、貴様が魔王軍への裏切り者だという証拠は掴んでいる。よって俺は、この女の村からの追放を希望する!」


 突拍子もない言葉に周囲は沈黙。メルアも、ただ驚いて言葉を失っていた。


「証拠はある。俺は魔王軍の兵士から押収したのだ。メルア宛の手紙を!」


 メルアへの手紙?まずい、このままじゃ彼女がぬれぎぬを着せられてしまう。


「待てガムラン。決めつけるのが早すぎだ」


「何だ貴様、この裏切り女の肩を持つのか」


 俺は急いでガムランに反論。そうじゃないとこいつの言葉にみんな流されてしまう。


「そうじゃない。こんなの、宛先の部分を偽造すれば終わりの話だろう! 証拠にはならない!」


 俺も負けずにきっぱりと言い放つ。ふざけるな、メルアを、犯罪者にするわけにはいかない。

 ニヤリとした笑み、自信たっぷりの顔をしている。


「あっそう、だが周囲はどっちの言葉を信じているのかな?」


 まずいぞ。メルアが悪いという雰囲気を作りあがってしまっている。今まで苦戦していた魔王軍という敵。それに裏切り者がいたという事実。(捏造)


 これでは正論で詰めても、勢いに押されて正論が流されてしまう。こいつはこれでも村の実力者で、コミュ力が高いこともあって人気があるんだ。


 というかすでにメルアが犯人だという空気が出来上がりつつある。


「マジかよ。あの女、裏切り者だったのかよ」


「あんな明るい顔して、裏があったの? ひどいわ」


 ひそひそ声だが、周囲がそんなことを言っているのがわかる。こいつら、サクラじゃないのか?

 メルアは動揺していて縮こまり、黙ってしまう。

 すると、ダルクがかっとなり反論。


「待てお前、勝手に決めるなよ!」


 俺もその言葉に乗る。言い返さないと、それが既成事実になってしまう。


「何だガキ! お前も裏切り者なのか?」


「そうだ、勢いに任せて証拠不十分で犯人を断定するのはよせ」


 するとガムランは「ははは」と余裕そうに笑い、俺を指さし言い返してきた。


「証拠は見せただろう。周囲を見てみろ。みんな私の言葉を信じ切っているではないか!」


「ふざけるな。そんなあいまいな証拠と、この場の空気だけで、メルアを犯罪者にさせてたまるか!」


 メルアは、相変わらず言葉を失ってしまっている。そりゃ、いきなり魔王軍に裏切っているなんて濡れ衣を着せられているんだ。

 無理はない、パニックを起こしているのだろう。


 だから、俺が代わりに守ってあげなきゃ! そしてガムランは自信満々に声を高々にしてさらに叫ぶ。


「なんだと。彼女に悪魔の証明を強制させる気かよ。人を罪人にするなら、お前が証拠を持って来いよ!」


「ほう、この俺様に口答えをするとはな。大したやつだ。確かに貴様の理論は一理ある。だが、周りを見て見な──」


 周り? ああ、そういうことか……。


 ガムランの言うことは理解できた。

 俺たちに対するどこか軽蔑じみた視線。ひそひそと聞こえるような聞こえないような声で会話しているのがわかる。



「マジかよ。あの女、裏切り者だったのかよ」


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