第18話 メルアとの会話は、楽しい
だから、俺が顔面を殴っても、嫌っているという事実から無意識に目を背けていたのだろう。
今度はど直球で、嫌い、顔も見たくない。と言ってやった。
その時の文香のバカ面は、今も記憶に残っている。
あれでわかっただろう。自分が嫌われているというのが。
「さすがにもう俺の前から姿を消すだろう」
あとは、適当な男と好きにしてくれ。もう文香とは赤の他人。赤の他人の不幸を必要に願うほど、俺は落ちぶれた人間ではない。
そして教会が見えてくる。もう夜、夕飯を作らなきゃ。
扉を開けるなり、子供たちがはしゃいで寄ってくる。そして先頭にいたダルクが、いたずらっ子のような笑みを浮かべ話しかける。
「おい、デートはどうだった? 寝るところまではいったのか!」
「ダルク、お前ませすぎだ。ちょっとは子供っぽくしろよ」
全く、どこで覚えたんだこいつは。
「とりあえず夕食を作ろう。みんな、皿を出したり手伝ってくれ!」
そして全員で夕食の支度を開始。
子供たちとの、騒がしくて楽しい日常。文香がいない日常、俺を必要としている子供たち。
今までの人生で、これほど充実していて幸せな時間なんてなかった。
こんな日常が、もっと続いたらいいな。
心の底から強く思った。そして食事を終え、片づけ。
食器を子供たちと一緒の洗いながらそんなことを考える。
俺はこの時気付かなかった。これから、文香が俺と、その周辺に不幸を降り注ごうとしているということに。
俺の日常生活は、今までにないくらい平穏で楽しいものになった。
普段は教会で子供たちと遊んでいて、要請があったひは、村の外で魔王軍や動物たちと戦ったりしていた。
そして今日はメルアがやってきた。
メルアは文香と同じ人間とは思えない。笑顔が似合う。キュートでかわいいその笑みを見ると、俺も元気になれる。
子供たちからもメルアは人気で、彼女が来ると教会の中は大盛り上がりになる。
誰からも好かれる明るい元気っ娘という表現がとても似あっている。
今度はダルク。まあ、ぶっきらぼうなのは相変わらずだが、どこかおとなしくなった。他の子供たちとも溶け込んで遊んでいることも多い。
そして今は市場で買ってきた、好物であるドライフルーツを食べている。
「安く売ってた。俺、これ好きなんだよな」
無心になってドライフルーツを食べている姿は、とても微笑ましく見える。
ダルク、いろいろあったけど、根はいいやつだ。
すると。玄関に扉を誰かがノックする。
「はいはい、今行きまーす!」
メルアが早足で玄関に直行。慌てて俺も向かう。
「どちら様ですかー」
「冒険者のまとめ役の」
この村の冒険者たちのまとめ役のような存在だ。
「ダルク、ギルドへ行くそ。一緒に行くか?」
「おう、いいぜ。行く行く!」
ノリノリなダルク。もう、ダルクは以前みたいに無茶な特攻はしない。約束だってしたしな。
さんに一言。「ごめん、これから3人でギルドに言ってくる」
「そうかい、ではいってらっしゃい」
そして俺たちは教会を出てギルドへ。
歩きながらほんわかした雰囲気。
そんな空気に中で、メルアが笑顔を俺に向けながら一言。
「何か家族みたいだね──」
「信一がお父さんで、メルアが妻」
「んで、ダルクちゃんが娘さん。って変なこと言わないでよ!」
メルアは顔を真っ赤にして反論。俺も、呆れながら言葉を返す。
「やめろよ。そうやってはやしたてるの」
「気にするな、冗談だ冗談!」
しかし、楽しい会話だ。この2人といると、心が落ち着く。
そう楽しく会話をしながら道を歩いていると、メルアが横を指さす。
「ねえ、ダルクちゃん、信一君。あれ……」
「確かに、文香じゃねぇか?」
ダルクの言葉に俺は思わず視線を向ける。本当だ。
あれは男たちの冒険者パーティ。その中心に、まるでサークルの姫のように、男たちに囲まれているのだ。もちろん、この間付き合っているといっていたガムランもいる。
「やっぱり、彼女モテモテだねぇ~~」
それを見てメルアは苦笑い。
確かに、みんなからちやほやされている。誰もが彼女を狙っているというのがわかる。
文香は、好意を向けてくる男たちに、にっこりとした笑顔を向け会話をしている。
いるのだが……。
チラチラチラッ──!
文香は、俺の存在を確認するや否やちらちらとこっちに視線を向けてくる。
──が、俺はその方向に背を向け、視界にも入れない。
「うん、文香も居場所が見つかったんだし、いいんじゃないのか? めでたしめでたし」
「まあ、それもそうだね……」
さすがにあれだけ突き放せば文香だって俺をあきらめるはずだ。
そして、新しい男を捕まえるために行動しているということか……。
やっと俺はあいつから解放された。
心が安らぎ、ほっとする。
周囲の男たちがちやほやし、文香はにっこりと彼らに甘えている。なんか新鮮な光景だ。俺にもあんな風に接してくれたら、デートくらいは考えてもいいんだけどな。
「なんか、幸せそうだね。文香ちゃん」
「──だな」
「そうだな。文香はもう俺からすれば赤の他人だ。好きにしておこうぜ!」
俺たちは文香を気にも留めずに歩を進める。
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