第21話 夜、国境にて


「俺は、メルアを犯罪者や、裏切り者なんてレッテルを張らせたくない」


 俺の強気な姿勢に、メルアはフリーズさせ、戸惑う。


「い、いやあぁ……信一君がこんな積極的に突っかかってくるなんて思わなかったよ。ちょっとびっくりしちゃった」


 メルアは戸惑ったまま指をツンツンとさせている。

 まあ、俺もここまで強く主張したことなんて、本当にない。似合わないことをしたものだと強く思う。


 とりあえず、今日の夜だ。絶対証拠を捕まえて、メルアの無罪を証明するんだ。

 絶対だ!


 そんな意気込みをしながら、俺たちはこの場を後にしていった。




 そして日が暮れた夜。


 魔王軍への道はこの峠道1本のみ。だから待ち伏せていれば自然と2人に出会う。



 国境とは言っていたものの。以前の世界の様に明確な場所があるわけではない。


「多分、この先の川のことを言っているんじゃないかな?」


「──それにかけてみるか」


 ここから道をまっすぐに行くと小さな川にかかる橋がある。俺たちの村ではそれ以降は隣国になり、みだりに入ってはおけないという暗黙の了解がある。


 恐らくそれのことだろう。


 そして橋の少し手前、草葉の陰で待伏せ。1時間ほどだろうか。村の方から、2人ほど、歩く音が聞こえる。


「来たんじゃねぇか?」


「そうみたいだね、ダルクちゃん」


 2人の言う通りだ。俺たちは物音を立てないように静かになる。


「ここでいいのか? 文香」


「そうよ。ガムラン」


 到着したみたいだ。そこに現れたのは、予想通り文香とガムラン。

 俺たちがいることなど知る由もなく、のんきに話をしている。


「やっぱりここに来たな。あとは魔王側の奴だけだな」


「ああ、でももうすぐ来ると思うよ。ダルク」



 それから俺たちは2人のくだらない話を聞きながら、この場で待機。

 村人や、冒険者たちの悪口や罵詈雑言を聞きながらつくづく思う。

 よくそんなに自分のことを棚に上げて、他人をバカにできるなと。


 アイツは無能、こいつは使えない。誰もいないところだとこうも人は醜くなれるのだと感心する。


 ──が、文香については他人を罵倒するのは日常茶飯事だし、ガムランも、他人を見下しているのが透けているような人物だからそこまで違和感はない。


 メルアもちょっとドン引きになっている。そりゃそうだ。


 そんな聞くに堪えない会話を聞きながらしばらく時がたつ。

 それから数十分が経過したころだろうか。



 カッカッ──。


 橋の向こう側、つまり魔王軍側から甲冑の音が聞こえてくるのがわかる。おそらくは首から上がないザコ敵「デュラハン」だろう。



「デュラハンだな。ぶっ殺してぇー」


「わかってはいると思うけど、手を出したりするなよダルク」


「しねぇよ。黙って見てればいいんだろ」


 俺たちがそんなことを話していると、文香たちも会話をはじめ出す。


「紹介するわ。こいつが私の新しい仲間ガムランよ」


「ガムランだ。街で1番の冒険者だ。よろしくな」


「噂には聞いていた。相当な実力者だと。なぜ寝返った?」


「デュラハン」も、村の実力者の裏切りには疑問を抱いているようだ。何か裏があるのかt勘ぐっているのだろう。


「まあな。なんでこの俺様があんな愚民どもとそこまで変わらない賞金で我慢せねばならんのだ。やってられん。これなら貴様たちについた方がよほどいい!」


 村人たちを裏切ることに、魔王軍に寝返る音に何の罪悪感もない。正々とした態度に

 デュラハンも彼の性格を理解したようで、話の本題に入っていく。


「とりあえず、説明する。4日後貴様たちの地に攻め込む計画がある」


 マジかよ。早く伝えないと。──今はとりあえず話を聞こう。


「それで、貴様は俺たちにどんな要求をするのだ?」


「俺たちとしては、手薄な所や、攻められると弱いところを知りたい。例を挙げると、要人がいる地域や、人質を取られると困る人物などだ」


「了解した。うちとしては、東側に役所などがある関係で、そのあたりに冒険者を配置する傾向がある。だから手薄な西側を狙うといい。この辺りは商店も多く、略奪にはもってこいの場所だ。あと、人質にするなら役場の人間がいい。村の奴らはなんだかんだ言って目上の人の言葉に従う傾向がある。人質にされれば手を止めるだろう」


 確かに、村の奴らはよく言えばお人好しな奴が多い。人質にされれば、戦うことを戸惑ってしまうだろう。

 しかし、それを悪用しようとするとは、良心のかけらもないな。


「了解した。こいつは礼だ。貴様のとこの冒険者から押収した金貨。それと、ダイヤモンドだ」


「金貨か。これは嬉しい。それにこのダイヤモンドとかいう。ほう、きれいだ。まるで水晶のようだ。まさに俺様が身に着けるにふさわしい」


 ちなみに金貨は村では貴重品。限られた人しか所持していない。ダイヤモンドに至っては、村で見たことがない未知の物だ。


 確かに貴重品ではあるが。こいつ、村の情報をホイホイ売りやがって、


「じゃあ、私達は適当に戦って、善戦したふりをする。略奪でもなんでも好きにしてくれ」


「しかし、それから、どうするつもりだ? 村が壊滅したら、あんた達だってその責任を責められるだろ」


 その質問にガムランは平然としながら答える。罪悪感のかけらもない態度。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る