第13話 その本は、お前にはまだ早い
「ダルク。評判じゃないか。お前はもっと自信を出していい。素敵な、存在だ」
ダルクは、どこか納得がいかないような表情をする。まあ、そのうちわかればいい。
「さて、次に行きたいところはあるか?」
俺の質問にダルクは、頭の後ろに手を置き、周囲をきょろきょろする。
「ここ、ちょっと入ってみたい」
ダルクが指をさしたのは、目の前にある店。
中を見ていると、戸棚にぎっしりと本が詰め込まれている。本屋か、それとも本を趣味で集めているのか。
「まて、本なんて高級品だ。さすがに買えないぞ」
さすがに、この時代の本は高くて俺の収入では買えない。が、ダルクの興味津々そうな表情。
「わかった。見るだけだぞ」
「おう、ありがとなー」
ご機嫌な様子で、中に入っていく。やっぱり子供っぽいな。
「いらっしゃい」
店の奥から店主らしきおじさんが出てくる。どこかご機嫌の様子だ。
「ああ、すいません。この子が興味津々みたいで」
ダルクは楽しそうに本を開け、内容を読んでいる。それを見たおじさんは笑みを浮かべ、言葉を返してくる。
「まあ、傷をつけたりしなければ、中身を読んでも構わないよ。一応売り物だからね」
「売り物なんですか? でも本って高価なんですよね。買う人っているのですか?」
そう、この時代に本を大量生産する手段はない。人の手で製作する関係で、貴族のような大金持ちしか買うことができないはずだ。
「まあ、半分はコレクションだけどねえ。けど最近は本の値段も下がってきてねぇ。安い値段の本をこうやって並べているんだよ」
話によると、遠い国で本を作る機械が導入された。それ以降、本が安く配られるようになったらしい。
そしてこのおじさんは、本業である商人の仕事を行っている傍らで、この本屋を経営しているらしい。
「本に囲まれるのが好きなんだよねぇ。せっかくだし1冊だけ、安く売ってやろう。特別に金貨2枚はどうかな」
「それでも金貨2枚するのか。まあ機械といっても輸送費とか考えるとこれくらいはするよな」
「今までは売ることさえできなかったんだ。これでも俺の利益はほとんど出ない。売ってやるだけありがたいと思ってくれ」
これを買ったら、あとは子供たちの生活費くらいしか残らない。
まあ、魔王軍討伐なんかで稼いだ金はある。買ってもいいか。文字を教える教育にもなるだろうし、教材つぃて使えばいい。
「ダルク。1冊だけ、売ってあげるよ」
するとダルクは、にっこりと笑みを浮かべる。
「1冊? わかった、ありがとうな!」
そしてご機嫌で本を選び始める。とりあえず、俺も本を見てみるか。
医学書に哲学書。神話なんかもある。どれも面白そうな内容だ。
つんつん──。
ダルクが俺の肩をたたく。
「これなんかどうだ? 信一も喜びそうだし」
そういって俺はダルクが渡してきた本を読んでみる。
「おい、なんだこれは!」
「信一はこういうの大好きだろ?」
にっこりのダルク。俺は顔を真っ赤にする。
問題なのは、本の中身──。
女性のヌードの絵ばかり。それも官能的に書かれた、胸や大事な部分がモザイクもなしに、詳細に描かれている絵だ。
「はっはっは、ませてるねぇ嬢ちゃん。それは、女性関係がうまくいかない貴族が、画家さんに作らせたものでねぇ。エロ本ってやつなんだよ」
「エロ本か。信一、これ、買っていいか? ナニに使うか、よくわかんないけれど」
「まて、それは勘弁してくれ。お前にはまだ早い。申し訳ないが、別の本にしてくれ」
全く。ませたガキだ。
すると、ダルクは本の中身と、自分の体を交互に視線を送りながら一言。
「やっぱり信一はおっぱいが大きい方がいいのか?」
そういってダルクは、自分のまだ未発達の胸をまさぐる。
「そんなことはない。俺は体の部位で人を判断するのはよくないと思っている。わかったな」
もっともなことを言って、この場を沈めさせる。
ダルクはまだ11歳。なのに本屋でエロ本に目をつけるとは……。
どれだけませているんだこいつは!
「──わかったよ」
俺の言葉を理解したのか、ダルクは顔を膨らませながら本を棚に戻す。さすがにお前の年齢で、それはまずい。他の奴にしてくれ。
そしてダルクは、いろいろな本を手にする。5分ほどすると、再び1冊の本を持ってくる。今度はまともな本であってくれよ。
「これがいい」
ダルクが手に持っている本、それを手に取り、中身を見る。
「おお、それはこの世界の創生を描いた神話だよ。あんたいいセンスしてるねぇ」
確かにそうだ。中身を見てみると、偉大な女神さまのような人物が出てきて、
神話というやつか。神様の偉大さや生い立ち、世界の創造なんかを書いているな。
「なんか面白そう。これでいいか?」
物語としても面白いし、教育にもいい。
悪くない。これなら子供たちへの教材としても使えそうだ。
直ちに購入を決定。ご機嫌になった店主に代金を渡す。
ダルクはご機嫌な表情で本を抱えながら、店を出る。
「いい本が買えたな」
「ああ」
ご機嫌な表情のダルク。ただ、高い本、汚すわけにはいかない。
「でもさ、落としたりするといけないだろ。だから俺が預かっておくよ」
「──確かにそうだな」
俺は本をカバンの中に入れる。次は、どうするか。
「ダルク、次行きたいところはあるか?」
「行きたいところか? どうしよっか」
ダルクがご機嫌な態度で考えていると……、その道先を、彼女のおなかが指し示してくれた。
ぐぅ~~。
「お腹、空いたなら何か食べに行くか」
ダルクは、お腹に手を当てながら言葉を返す。
「──そうだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます