第12話 ダルクの、かわいい姿

「ダルクが食い物を食べてるとき以外で楽しそうにしているところ、見たことがなかった。だからたまには楽しませてあげようと思ってさ」


「ふ~ん」


 そう、ダルクは教会にいるときいつも子供たちに溶け込まず、ひとりで空を見ていたり、ソファーに座りながら遠目にその先の光景を見ていたりしていた。


 これは俺の予測なのだが、魔王軍に殺された両親の事や、思い出を考えているのだと思う。

 やはり、気になってしまうのだろう。


 そんな彼女にできることは、両親の代わりに俺が彼女を楽しませてあげるということだ。


 もっとも俺はデートと言えば、いつも文香に振り回されていてばかり。自分でどこに行くか考えたり、エスコートした経験なんてない。


 まあ、ダルクはそれでバカにしたり、嘲笑ったりするやつじゃない。うまくやろう。


「んで、最初はどこに行くんだ?」


 ダルクが興味津々に聞いてくる。当然最初くらいは考えている。


「服屋に行こう。ダルクに似合う服、1つだけ買ってやるよ」


 今のダルク、灰色とクリーム色の少しよれて、古びた服。かわいい女の子なら、もう少し女の子っぽい服買ってやりたいからな。


「そうか、じゃあよろしくな」


 どこか乗り気のダルク。しばらく歩いていると、村の中心部へ到達。

 小さい村だが、中心部だけあって、人通りがそれなりに多い。


 そこそこ賑わいを見せている。


 そして中心部の店が連なる地区に、目的の場所はあった。

 小さい店、中に入ると様々な服が展示されている。


「いらっしゃい。初めて見る顔だねぇ」


「この子に似合う服。何かないですか?」


 中にいたのは気さくな店主のおばさん。そしてダルクに似合いそうな服を3人で探し始める。

「好きな服、いつだけ買ってもいいぞ」


「いいのか? ありがとうな」


 そしてダルクはおばさんと一緒に服選びを開始。

 おばさんが嬉しそうにいろいろな服をダルクに紹介する。


「ダルクちゃん。元気で活発そうだからこんなズボンなんてどうだい?」


「おおっ。かっこいいな」



 ダルクもどこか楽しそうだ。


 思い出すなあ。文香とデートしたとき。あれがいい、これがいいと、デパートの中を何十分も連れまわされた時を。


 生き生きとしながら、服を試着したりしている姿を見ると、彼女も女の子なんだと感じる。

 楽しそうに服選びをすること15分ほど。


「おおっ、ダルクちゃん、かっこいいしぴったりだよ」


「うん。これがいいや」


 その服を着て、ダルクはとても嬉しそうに俺に見せびらかしてくる。


「確かに活発的なダルクにはぴったりだとは思う」


 俺は彼女の姿を見て言い放つ。

 水色のパ-カーと、白黒の絵が入ったシャツの重ね着。タンクトップの短パン。


 別に似合わないだけじゃない。ただ──。


「すいません、それキャンセルしてください」


「えっ?なんでだよ」


 ダルクとおばさんは驚いて目を丸くする。そうだ、彼女にはもっと素晴らしい一面がある。

 それを表現するには、これでは足りない。



 そして俺は彼女に、真に似合う服を探し始める。


 それから10分ほど。


「おい、これ俺が着る服じゃないだろ……」


 ダルクは恥ずかしがり、困惑。顔を赤くする。


「おおっ、かわいい服を選ぶねぇ」


 おばさんは驚いて、ダルクを凝視。2人が驚くダルクの服装。それは──。


 肩を露出した純白のドレスのようなワンピースに、フリフリのミニスカート。白いリボンの麦わら帽子。

 お嬢様をほうふつとさせる、かわいさと清純さを両立させた服装。


 かわいらしくて、彼女の魅力を良く引き出させている。


「どうだ。これがいいと思うどうかな?」


「嫌に決まってるだろ。文香とか、メルアが着るべき服だろ!」


 恥ずかしがりながら抵抗するダルク。でもダメだ!


「いいや。お前だってメルアに負けないくらい魅力的だと思う。その服は、俺がお前の魅力に気づいてもらうためにあえて選んだんだ。金を出すのは俺だ。その服じゃなかったら俺は服の購入を認めない。いいな」


「なんだよ。ずるくないかそれ!」


 俺は強気に出る。慌てるダルク。するとおばさんが援護射撃をしてくれた。


「けど、よく見てみるととてもかわいいと思うよ。一回それで街歩いてみなよ」


 ありがとう。そしてダルクは観念したのか──。


「わかったよ。これにすればいいんだろ。……ったく変な奴だな」


「じゃあ、これにします」


「あいよ、まいどあり」


 そして俺はお金を払う。結構高かったが、金はまた稼げばいい。


 とりあえず第一目標は達成だ。


 ダルクは、自分なんてどうでもいいと思っている。大切に思っていない。

 だから、無茶な特攻を繰り返し、自暴自棄になる。


 まずは、自分がどうでもいい存在ではない。大切な存在だと気づかせることから始めた。


「ダルク、とても素敵で、かわいいと思うよ」


「あ、ありがとな──」


 照れながら言葉を返すダルク。周囲を見ると、村人たちが吸い寄せられるかのように彼女に視線が集中しているのがわかる。


「何々あれ。めっちゃ可愛いんだけど」


「本当だ。あんな子いたっけ」


 ダルクということにすら気づいていない。効果てきめんだ。ダルク、


「ダルク。評判じゃないか。お前はもっと自信を出していい。素敵な、存在だ」


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