第11話 ダルクの出した勇気

「そうかもしれないな」


 お前にはそう見えるよな。けどそろそろだ。


「これで終わりだ」


 ヒュドラの大砲の魔力が一気に強くなる。そして俺に向かって振り下ろす。


 威力の上がった攻撃を俺は受けきれず、教会から離れるように吹き飛ばされる。そしてヒュドラが追い打ちをかけようとしたとき。


 タッ──。


 教会の屋根の上に隠れていたダルクが姿を現すのが横目に見える。


 それでいい。俺はヒュドラのその先に視線を向ける。

 そう、俺はわざと押されてるふりをして、ヒュドラの背中が教会を向けるように誘導していたのだ。


 サッ──。


 ダルクが音を消して、ヒュドラに接近。ヒュドラは2~3メートルくらいまで接近してようやく気付き、ダルクのほうを向く。


「そういうことか、少しは頭を使うようだな。だが甘いぞ!」


 ヒュドラが自身の大砲で攻撃を受けようとする。


「させるかよ!」



 俺は精一杯の力で、剣を大砲にたたきつける。結果、大砲でダルクの攻撃を大砲で受けることができなくなり──。


 ズバァァァァァァ──。


 ダルクの精一杯の攻撃が、彼の肉体を切り裂く。


 ヒュドラは攻撃をもろに受け、肉体が吹き飛ぶ。チャンスだ!


「えい!」


 メルアはボロボロになりながらもなんとか立ち上がり、弓を構える。そして矢に魔力を強く込めて解き放つ。


 解き放たれた矢はヒュドラに直撃。


 俺は最後にヒュドラに向かって剣を振り下ろす。彼の肉体は吹き飛び、壁に激突。

 そのまま倒れこむ。こいつの肉体から魔力が消滅していくのがわかる。勝負あったな。


「よし、勝ったな」


「だといいんだけどね」


 メルアは苦笑いをしながら言葉を返す。恐る恐るヒュドラの方向に視線を向けると……。


「あれだけのダメージを受けてまだ立てるのかよ!」


 確かに魔力こそないものの、ゆっくりとヒュドラが立ち上がる。さすがは魔王軍幹部。

 そしてニヤリと邪険な笑みを浮かべながら俺たちに向かって叫ぶ。


「フッ。だがただで負けるような俺ではないぞ!」


「この野郎!」


 ダルクが叫び、再び槍を握る。


 するとヒュドラは負け惜しみのような台詞を吐きながら自身の腕にある大砲を子どもたちに向けはじめた。


 こいつ、俺たちに勝てないからって子供たちに? 心の底から腐ったやつだ!


「あばよ 地獄でまた会おうな」


 急いで距離を詰めるが距離が遠すぎて間に合わない。子供たちの表情が恐怖に染まっているのがわかる。


 そして無情にも、子供たちに向かって砲撃が放たれる。


「──させるかよ!」


 ダルクは急いで大砲と子供たちの間に立ちふさがる。そしてヒュドラの攻撃が直撃。


 ダルクの身体は、大きく吹き飛び教会の壁に激突。そのまま倒れ込む。


 フハハハハハハハハ


 ヒュドラは右手で額を抑えながら高らかに笑う。


「ざまあないな。私を殺すチャンスをフイにするとは」


「お前!」


「今回は撤退してやる。次こそは、貴様たちを──血祭りにあげてやるからな」


 そして俺たちに向かって砲撃を放つ。背後に人はいないので、俺もメルアも横に身を投げる。


 そして攻撃をかわした後、再びヒュドラ外たちに視線を送る。あの魔力的に、砲撃を2発も撃ったらガス欠しているはずなのだが──。


「逃げられ……、ちゃったね」


 俺に苦笑いで話しかけるメルア。チッ、せっかく勝ったのに、悔しいな。


「あ、そうだ、ダルクだ!」


 俺はすぐにダルクの所に駆け寄る。攻撃をまともに食らい、ボロボロの状態。


「ダルク、大丈夫か?」


「大丈夫じゃ、ねぇよ」


 ダルクから感じる、やり切れないような、無念のような表情。


 こいつだって、両親を殺した魔王軍を目の当たりにして、一刻も早く殺したかっただろう。消滅させたかっただろう。


 けれど最後は、自分の感情を抑えて、後ろにいる子ども達を守るという選択をとった。


 たかだか11歳の少女がだ。


「ありがとうなダルク。お前のおかげで、みんなは救われたよ」


 ボロボロになったダルク。照れながら、言葉を返す。


「いや、別にそこまでのことはしてねーし」


 あとは、ダルクに教えればいいだけだな。大丈夫、根は悪いやつじゃない。

 そして優しく話しかける。


「あとさ、ダルク──。明日……俺と出かけない?」



「出かける、何でだ?」


「おっ、デートかい? それともプロポーズかい?」


 茶化すような口調のメルア。まあ、近いかもな。


「まあ、細かいところは、明日お茶でもしながら話すよ」


 するとダルクは、ご機嫌そうににこっとしながら言葉を返す。


「お茶? パスタとかならいいぞ」


「わかった。食わせてやるよ」


「お二人さん、幸せになるんだよ」


 メルアの言う通り、明日はお前が幸せになる番だ。ダルク。





 そして翌日。



「じゃあ、行くよ」


「ああ、よろしくな」


 俺とダルクは村へお出かけする。さながらデートのような雰囲気だ。


 一般人が住んでいる家屋が連なる、村の中心への道。俺はダルクと同じペースで歩きながら会話をする。


「なあ信一。ちょっといいか?」


「なんだ」


「なんで、俺と出かけようなんて言い出したんだ?」


 驚くのも無理はない。俺がダルクにこのことを告げたのは昨日の夜だ。夕食後、外にダルクを呼び出し、突然話しかけたのだ。


「明日、俺と一緒に出掛けよう」


 と──。


 そしてダルクの質問に俺は、作り笑顔を浮かべて答える。


「ダルクが食い物を食べてるとき以外で楽しそうにしているところ、見たことがな

 かった。だからたまには楽しませてあげようと思ってさ」


「ふ~ん」




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