第14話 心の底からの笑顔

 俺は本をカバンの中に入れる。次は、どうするか。


「ダルク、次行きたいところはあるか?」


「行きたいところか? どうしよっか」


 ダルクがご機嫌な態度で考えていると……、その道先を、彼女のおなかが指し示してくれた。


 ぐぅ~~。


「お腹、空いたなら何か食べに行くか」


 ダルクは、お腹に手を当てながら言葉を返す。


「──そうだな」


 そして俺たちは再び街を歩き始める。街の真ん中のこじんまりとした商店街。昼時だけあって、そこそこ人がいる。


 居酒屋に、パン屋。どれにするか。すると、ダルクが俺のシャツの裾を引っ張ってきた。


「信一。俺、あそこがいい」


 ダルクが指さした先には1軒のカフェのような店があった。特に行列がないわけでもない。あの店でいいか。


 そして俺たちは、その店に入る。外の景色が見える開放的なテーブル席に座り、メニューを見る。


「パスタとコーヒーでいいか?」


「ああ、いいぞ!」


 そして俺たちは店主を呼び出し、パスタとコーヒーを頼む。



 10分ほどでパスタとコーヒー、付け合わせのサラダが出てくる。


 さすがに俺の世界のような凝った味のするパスタではなく、クリームと塩コショウだけの簡単なものであったが、それでもおいしく感じる。


「すげー、このパスタうめー」


 ダルクも気に入っているようだ。

 コーヒーをすすり、俺はダルクに1つの質問をする。


「なあダルク、今日は楽しかったか?」


 するとダルクはにこっと笑顔を浮かべる。


「ああ、楽しかったぞ信一。また遊ぼうな」


 造り笑顔でない、屈託のない笑顔。俺にはわかる、彼女が心の底から楽しんでいるのが。


 これが俺の出した結論だ。


 俺の狙い、それはダルクが心の底から生きることを楽しんでもらうことだった。

 彼女が抱えている魔王軍への憎悪。


 どれだか綺麗ごとの説教を言ったところで、反発してしまうのがオチだろう。

 そんな言葉だけで、彼女の心を変えることなんてできない。


 だから俺は、別の方法を考えた。

 彼女を否定するのではない。それよりもっと素晴らしいものがあるって、実感させてあげればいいんだと。


 復讐しか頭になかったあいつに、違う価値観を教えてやった。


 一緒に歩いて、いろいろなものに触れさせる。

 生きる楽しさを教えてやったんだ。


 この世界には、復讐よりももっと素晴らしいものがあると。

 彼女が自分から、死兵になることを捨てるようにしてやったんだ。




「今日は楽しかったぞ。ありがとな」


  ダルクは夢中になってパスタを食べている。

  俺は彼女の笑顔を見つめた。


  彼女の屈託のない笑顔を見ていると、俺は心の底から癒される気分になる。

  とりあえず、うまくいきそうだ。




 そんなことを考えていると、身に覚えがある悪魔のような声が後ろから聞こえはじめる。


「信一く~ん。なんでこんなところにいるのかな? それもダルクちゃんなんか連れて」


 文香だ、それだけじゃない。もう一人いる。


「信一? ああ、こいつか、文香の元カレで、ちょっと実力があるからって生意気になってるやつか」


 二枚目で長身、いかにもモテそうな優男にみえるが、どこか人を見下している薄ら笑いを浮かべているのがわかる。


「そう。私が好意を持ったからって、生意気になってるどうしようもないやつよ」


「フッたなら、わざわざ俺にかまうことないだろ。そいつと幸せになればいいじゃないか」


 全く。なんでつっかってくる必要があるんだ。



「なあ、ちょっといいか?」


 ダルクだ。文香に聞こえないよう、耳に手を当て話しかけてくる。


「こいつ、敵なのか?」


 その言葉に俺は驚く。そして同じく小声で返す。


「大当たりだ。わかるのか?」


「気配でわかる。こいつ、俺たちに敵意を向けているだろ」


 まあ、あれだけ経験があれば、殺気の一つでもわかるのも不思議ではない。



 そして、今回は文香だけではない。隣にもう1人。


「お前が信一ねぇ。あまりカッコいいとは思わんな。20点という所か」




 男は出会っていきなり、俺の顔をまじまじと見ながら俺を値踏みする。嫌味な奴だ。


 確か以前、魔王軍との戦いで聞いた事あるな。

 ガムラン・フランソワだっけこいつ。


 親が外国から追放され、この地にやってきた。

 魔王軍相手に良く活躍している、イケメンで実力もある冒険者だ。



 しかし一方で、弱い冒険者をいじめたり、女を何人もはべらせたりと、問題のある冒険者として知られていた。


「お、おう、よろしくな」


 値踏みしながら、じーっと俺の顔を見てくる。


「甘く見積もっても40点くらいだ。そこまでかっこいいとは思えん」


「でっしょ~。なのに、こいつこの超かわいい文香ちゃんと付き合えたからって勘違いしているのよ。自分がモテる存在だって」


 達者な口調で、俺に指さしながらいつもの嫌味を言う文香。


「ごめんね~~、あんたがそんな調子乗ったマネするんだもん。だから私、あんたなんかよりかっこよくて強いこの人に乗り換えちゃった。どう? 悔しいでしょ!」


 違う男に乗り換えた? あ~あ、悔しいな(棒)。悔しすぎて嬉し涙が出そうだぜ!


「そうか、新しい彼氏を見つけたのか。はいはい。じゃあ俺の出る幕はもうないな。幸せにしてくれよ」


 俺は何食わぬ表情で、言葉を返す。そうか、代わりの男を見つけたなら、もう俺にかまう必要はないな。


「それじゃあ、ガムランとお幸せにな。じゃあな」

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