第4話 信一君、本当はかっこいいと思う

 再び目を開けると、文香の姿はすでになかった。


「信一君……」


 メルアがゆっくりと俺によって来る。俺は戦いの疲れからか、脱力感に襲われ、座り込む。供給を上げすぎて、すぐに魔力がガス欠をしてしまうのが。この術式の欠点だ。


 メルアも疲れ切っていたようで、俺の隣にちょこんと座りこむ。互いの腕同士が触れてちょっとドキッとする。



 俺はメルアに文香の本性。そして彼女に振り回され続けた人生をすべて話す。

 するとメルアは座り込んだまま苦笑いをし始めた。


「そ、そんな子だったんだ。私驚いちゃった」


「まあ、誰だって驚くよな」


「けど、ちょっと裏がある子なんじゃないかとは思っていたけどね。素振りとか見ていて感じてた……

……」


 まじかよ。女の勘ってやつか。文香もそうだったけど、女の子はこういうの鋭いよな。



 とりあえず。もう夜も遅い。とりあえず帰って寝よう。そのあと、どうするかゆっくりと考えるとするか。


「メルア、もう寝よう。色々疲れたし、この後のことを考えるのは、それからでもいいと思うんだ」


 俺がそう返すと、彼女が眠たそうにあくびをする。


「ふぁ~あ、そうだね。じゃあ帰ろう」


 そして俺たちは立ち上がり、帰路に就く。分かれ道が車で、俺はメルアと楽しく会話をした。

 この村のこととか、困ったこと、楽しいことなど。


 やっぱり彼女と会話をするのは楽しい。そして分かれ道。


「じゃあね、信一君」


「そうだね、おやすみ」


 あっという間に感じた楽しい時間は終わりを告げる。さて、これからどうするか。


 そして俺は教会に帰還。当然文香はいない。布団に入ってすぐに夢の中に入る。



 朝、俺は疲れていたようで、起きたころには子供たちはすでに起床し、日は登り始めている。


「ねえねえ信一君」


 毛耳をつけた男の子が寝起きの俺の体を揺さぶってくる。

 俺は目をこすりながら彼の話を聞く。


「こんな置き手紙があったよ」


 男の子が渡してきた手紙に俺は視線を移す。

 文香からの手紙だ





 文香


 しばらく用事があるので、教会を留守にします。

 ごめんなさい


 さみしいかもしれないけれど、信一君がいるから大丈夫だよね。


 みんな、私がいなくてもいい子にしているんだよ。

 きっと、また戻ってくるから


 さようなら


 文香より。



 悲しそうな表情をする子供たち。うつむいたり、シュンとしているのがわかる。



 人当たりだけはいいからな。文香、俺があいつの本性をしても子供たちは信じてくれないだろう。



 今はこいつの本性を話すのはやめておく。子供たちがかわいそうだ。

 そんなことを考えていると、玄関をノックする。


「信一君。おっはよー」


 メルアだ。昨日の疲れを感じさせないくらい、笑顔で明るく元気な姿を見せている。


「メルア。今日はどうしたの?」


「う~ん。今日はクエストもないしちょっと信一君にお礼がしたいの」


 お礼? なんだ──。するとメルアは肩にかけていたカバンからはさみとブラシを取り出し始める。


「昨日のお礼に、イメチェンさせて。信一君がもっとかっこよくなるところ、見てみたくってさー」


 俺がかっこよくなる? 何かの都市伝説か? 俺はそもそもイケメンでもなんでもないし。お世辞でも言っているのか。


「俺がかっこいいって。ありえないだろ」


 するとメルアがぷくっと顔を不満げに膨らませ始めた。


「そんなことないよ。信一君、髪切って男前になれば絶対かっこよくなれるよ。私に任せて。さあさあ」


 そういってメルアは俺の肩をぎゅっとつかみ、外にある庭のベンチへ。




 はさみやくしなどで俺の髪と切ったり、整えたりする。それだけじゃない、彼女が液体の入った瓶を取り出し、液体を自分の手に擦り付けた。


 そしてその手で俺の髪をもみもみとする。すると髪の毛から柑橘系の香りが漂い始めた。


「ふふん。オレンジの香水だよいい匂いでしょう」


 確かにオレンジっぽい。髪に香水なんて不思議な感覚だ。でも何か気持ちいい。


 1時間ほどで、イメチェンの時間は終わる。


「できたよ!」


 メルアがそう叫ぶと、隣に座り込み、カバンから、手のひらサイズの手鏡を取り出し、俺に見せてくる。

 そして鏡に映った自身の姿を見る。


「た、確かにすごい──、俺、ここまで格好良くなっているのか?」


 どこかぼさぼさだった髪が、うまく整えられている。長めだった髪は少し短くなり、あまり目の部分が見えていなかった以前と比べて、明るい印象になっていた。


「うんうん。信一君、もともと素質はあると思っていたんだよね。だからそれを引き出してみたの」


 俺に素質か──、考えてもみなかったけれど、この姿を見るとあったのかもしれない。今までは興味がなかっただけで。

 するとメルアが再び立ち上がって、玄関を開ける。


「ちょっと子供たち呼んでくる。みんなに見せてあげようよその姿」


 そしてメルアは意気揚々と家に中に入っていった。

 数十秒もするとメルアと一緒に子供たちがわらわらと出てくる。



 そして俺の姿を見た子供たちはその姿を見るなり、表情をぱっと変え始める。


「信一兄ちゃんかっこいい~~」


「かっこい。私信一君のお嫁さんになりたい!」


 子供たちが目をギラギラとさせながら俺の元にすり寄って来た。子供たちは両手をぎゅっと握り、羨望の眼差しを送ってる。

 子供とはいえ生まれて初めての経験。どこか自信がついた気分だ。ちょっと外見を整えるだけで、ここまで変わるなんて。


 そしてそれをくれた本人、メルアに視線を送る。


「うんうん、かっこいいねぇ。モテモテじゃん!」



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