第5話 全てが、見えてしまっている

 そしてそれをくれた本人、メルアに視線を送る。


「うんうん、かっこいいねぇ。モテモテじゃん!」


 スッと笑みを見せる。天使のような、優しさと美しさにあふれためがみのような笑顔だ。

 何か自信がついたな俺。ありがとうな、メルア。この恩は、必ずどこかで返そう。


 そしてそのまま庭で子供たちやメルアと一緒に遊び、楽しいひと時を過ごす。



 やがて昼になり、俺は子供たちと一緒に昼食を用意。いただきますの声とともに食事を始める。


 ライムギのパンに野菜を挟んだ簡単な食事。元の世界と違い貧しく、文明レベルも低いこの世界ではこれが精いっぱいだ。


 そしてパンを半分ほど食べた時のことだった。


 コンコン。


 誰かが入り口の扉をノックする


「すいませ~ん。今いきまーす」



 俺は早歩きで玄関まで歩き、ドアを開ける。そこにいたのは村の冒険者仲間。

 3人ほどいで中央にいる槍を持ったリーダー格の冒険者が。腰に手を当て俺をにらみつける。


 そしてたしなめるような口調で言い放つ。


「ダルクって、この教会に住んでいるんですよね?」


「いつもいつも勝手な行動をとって、周囲の和を乱すのやめてもらえませんか?」


「おまけに防御も考えないその! ったく、あんたの身に何かあったらパーティー全体の責任になるっつの!」


 ダルク・フロスト11歳。この子たちと一緒で両親を亡くし、教会に住んでいる女の子だ。

 彼女はここの子たちの中どころか村の中でもトップクラスの魔力適性を持ち、ほかの村人と混じって魔王軍や動物たちと戦闘ができるほどの腕前がある。


 だがあいつは、口が悪く、いつも子供たちの中で浮いてしまい孤立している。それを察してか、教会では1人でいることが多く、2,3日どこかに行ったきり帰ってこないこともザラだ。

 現に今も3日ほど彼女は帰ってきていない。


 注意しても「別にいいだろ」と反論して聞かないし。


「す、すいません。いまダルクは今いません。帰ってきたら必ず注意しておきます」


 俺はペコペコと頭を下げながら、彼女の代わりに謝罪しる。すると冒険者はため息をしながらあきれたような表情をする。


「もう、ちゃんと注意してくださいよ。私だっていやです、あんな子供が無茶な特攻で死んだりするのは」


 そんな注意をしながら冒険者たちはこの場を去っていく。


「なんだよ、あんな奴のために謝ることなんてんないよ」


 子どもの1人が俺に向かって言ってくる。すると、他の子どもたちも不満そうに叫んできた。


「そうだよ。あいつ、生意気だし、話しかけてもろくに反応しないし」


「そうそう。遊ぼうって誘っても、乗ってくれないし」


 まあ、不愛想な奴だからな。不評を買うのはわかる。けど話し合ってみないと始まらない。


 謝ることにはなっちゃったけれど、それは文香のおかげでほぼ日課となっているので慣れているといえば慣れている。気を取り直してこの子たちの世話をしよう。


 とりあえずダルクが返ってきたら話を聞いてみよう。



 そして食事を終わらせ、子供たちと一緒に皿洗いや家事。

 いろいろ遊んだりして1日を過ごす。




 そして日が暮れようとしている時間帯。洗濯物を子供たちと一緒に部屋に入れて、夕食の準備を始めようとしたころ。


 キィィィィ──。

 教会の扉が開く。


「ただいまー」


 ぶっきらぼうな声、茶髪のショートヘアー、俺たちの世界でいうと小学生くらいだろう。確か11歳って言ってたよな。


 その声に子供たちが警戒した表情を見せる。

 ダルクが返ってきた。おそらく夕飯を食べに戻ってきたのだろう。


「ダルク。3日間も何やっていたんだ? 危ないところに行ってないだろうな」


「あ? うるせぇな。何でお前なんかに命令されなきゃいけないんだよ」


 反抗的で反省の色1つ無い開き直った態度。相変わらずだ。


「お前のパーティー仲間から苦情が来てるぞ。死んでもおかしくないような、無謀な突撃ばかりしているんだって?」


「知るかよ。別に迷惑かけているわけじゃないんだからいいだろ! 俺は1人でも多くの魔王軍を殺したいんだよ」


 その強い口調には強い憎しみがこもっているのが俺にはわかる。その強さから、今どれだけ叫んでも無駄だろうと察した。

 とりあえず夕食の準備だ。話はそのあとでいい。



 そして夕飯を食べ、全員をシャワーを浴びさせた後。大部屋にいる子供たちにダルクの居場所を聞く。


「あいつなら奥の部屋に引きこもってるよ」


 不機嫌そうな男の子の声。取り合えず、1人でいるなら好都合だ。今なら時間に余裕があるから、ダルクとたっぷりと腹を割って話せる。


 そして俺はそのドアを開け、ダルクの部屋に入る。


「ダルク。ちょっと話が──」


「バ、バカ! 入ってくるな!」


 ダルクの叫びに俺は自らがしてしまった過ちに気づく。ダルクは少女だった、そしてノックをして返事を聞かないままその扉を開いてしまった。


 ダルクは右手で胸を、左手で大事な部分を隠しながら顔を真っ赤にして俺を睨み付ける。


 あまり言いたくないが、全てが見えてしまっている。


 き、着替え中だったのかよ。

 純白の肌。成長途中のかすかな胸の膨らみ。程よく引き締まった太さのある太もも。


 少女の美しい裸体が俺の情欲をよぎり、理性がはじけそうになってしまう。


「お前、そんな趣味あるのかよ。変態だな」





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