第3話 付き合っているの──、私以外の女と?



 全力の顔面パンチ。

 さすがに俺が反抗することは予測していなかったようで、ガードすることができなかった。


 鼻からぽたぽたと鼻血が流れ出ている。


 そして右手で鼻を抑えながら俺をにらみつける。

 目をきょろきょろとさせていることから、表情を見るだけで動揺を隠せないのがわかる。


 そしてびくびくとしたまま俺の方向を向いてつぶやく。


「ウソよね、付き合っているの──、私以外の女と?」


「ち、違うよ……、私、別に信一君と付き合っているわけじゃ──」


 メルアはボロボロになった身体を起き上がらせ、文香に話しかける。


「もういいメルア。喋っても無駄だ」


 俺はいつも文香といたからわかる。明らかに目が座っている、こういう時の文香は、何を言っても聞かない。

 相手を叩き潰すその時までは。


「とりあえずこんなところで暴れたら、建物が崩壊するし子供が起きるわ。外行きましょ」


「わかった」


 まあ、さすがに教会ぶっ壊して帰る場所がないというのはまずい。俺たちは静かに歩いて教会の外へ出る。


「ここなら思う存分あなたたちを叩きのめせるわ」


 少し離れたところにある草原。人気はなく、周囲に建物はない。ここならどれだけ暴れても大丈夫そうだ。


 そして俺とメルアは自身が持っている武器を文香に突き付け対峙する。

 ちなみに俺は自分の身長の半分ほどある剣。メルアは弓だ。



 文香も自身の武器である自分の身長くらいある大鎌を召喚してくる。


 すると文香はうつむいたまま、奇妙な笑い声をあげた。


 イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ──。フヒャヒャヒャヒャヒャヒャ──。





「あはははは、こいつ。体売ったんでしょ? それで、私と別れないと無理やりHなことされたって騒ぐって脅されているんでしょ?」


 そんなことするわけないだろ。こいつはお前と違う!


「きっとそうに違いないわ。だからこのクソ女から私の信一を解放してあげなきゃ」


「ふざけた思い込みばかりしやがって。もう力ずくで思い知らせてやる!」


 そして俺たちと文香の決戦が始まる。


「行くよ信一君!」


 即座にメルアが魔法を発動させ、その周囲から魔力を帯びた炎で燃える弓矢が出現する。

 そう、この世界にはファンタジー世界でよくあるような魔法が存在する。


 魔法の強さは、個人の素質によって差がある。俺と文香はAランクという村でもかなり高いランクの素質がある。


 そして、魔法が使える人は、身体に魔力を込めると、武器が出現するのだ。

 ちなみに俺は剣、文香は大鎌。メルアは弓だ。


 それだけでなく、魔法が使える人は、その武器から魔力を伴った攻撃を繰り出せる。

 その攻撃も、砲弾だったり、遠距離砲だったり、果ては自身の武器を強化する役目だったり様々だ。


 そしてメルアの弓矢が上下左右に文香に襲い掛かる。

 文香は自分の身長くらいある大きな鎌を、軽々と振り回し、彼女の攻撃をたやすく薙ぎ払う。


「何よそのおもちゃ。蚊に刺したくらいにしか感じないわ」


 それがどうした、今のはおとりだ。そのスキに俺が攻撃をする。


 自身の剣を構えたまま一気に文香の元まで駆け抜ける。



 そしてその剣を一気に薙ぎ払う。文香がその攻撃を受け止めると。互いの武器が激しく衝突し、火花が生じる。


 今、かなり力を入れたはずなのに、文香の大鎌はびくともしない。

 村の中でもトップクラスの魔力を持っているんだった。伊達じゃないな。


「何それ? その程度で私には向かおうとしたの? どんだけお花畑なのよあんた」


 どや顔で文香が叫ぶ。そして文香は一気に俺に突っ込んでくる。


 文香の攻撃を受け止めながら、その攻撃の強さに驚く。


「どうしたの? 守ってばかりじゃ勝てないわよ」


 1つ1つの攻撃が重い。まるでダンプカーの突進を剣で受け止めているかのようだ。

 大振りで隙だらけだが、受けるのに精いっぱいでとてもじゃないが反撃できる状態じゃない。


 メルアは攻撃できないでいる。乱戦状態では、迂闊に弓で反撃はできないようだ。


「あんたの強さなんてたかが知れてるわ。私に勝てないのはわかっているんだから」


 まあ、確かに俺の魔力はお前より低い。けど、勝ち目がないわけじゃない。


 お前は最近神父がいない間、俺がクエストで戦っている中、いつも子供たちの留守番をするといって、クエストをさぼっていた。


 その間、俺は貴様を倒すべく秘密の力を習得していたのさ。

 文香が力いっぱい振り下ろした攻撃、慌てて後方に後退し1瞬のスキができる。


 そしてこれが俺の真の力だ。


 俺は魔力供給を一気に上げる。そして文香に向かって飛び込み、振り下ろした大鎌を踏みつける、これで文香は無防備状態だ。


 俺は剣をしまい、その拳で再び文香の頬をぶん殴る。


 拳をぶん殴る音が響き渡る。文香はそのまま数メートルほど吹き飛ぶ。

 殴られた右頬を抑えながら、俺に向かってにらみつける。


「あんた、しばらく見ないうちに強くなったじゃない」


「当り前だ、いつまでもお前の奴隷でいる俺じゃない」


 その言葉に文香は歯ぎしりをしながらニヤリと笑う。何を考えている?


「わかったわ。私が好きすぎて、いたずらをしているんでしょう? 好きな子にいたずらをして気を引こうとしているのと同じね」


 現実が見えていない。


「まあいいわ。しばらく信一の前から姿を消してやるわ。さみしいでしょ? 大好きな大好きな子の文香ちゃんがいない日々を、あなたは過ごすことになるのよ」


 文香がいない日々。いやぁ、さみしすぎて嬉し涙でいっぱいになりそうだな。


「じゃあ、この私を殴った報いとして。あなたの愛しの恋人、文香ちゃんがいない絶望の日々たっぷり味わいなさい」


 希望の日々の間違いでは?


 ピッ──。


 文香が指をはじく。


 まばゆい光がこの場を包む。1瞬だけ俺は目をつぶってしまう。


 再び目を開けると、文香の姿はすでになかった。


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