3章 〈プラス・ゲーム〉
3-1
「先輩が……消えた?」
ゲー研に立ち寄った際、部員の宮崎から耳にした第一声に、千石雅志は思わず目を丸くした。
「嘘だろ……」
――――それが、先日の放課後に知った事実であった。
詳細を訊けば、椎葉依桜は前日の放課後から帰宅しておらず、かつ連絡も全くつかないらしい。ただ、それ自体は時たま彼女にあることらしいが、どうやら今回は事が違うようだ。
青少年同時失踪事件。
(同時期に全国の中高生が一斉に姿を眩ましたって、今では世間が大きな騒ぎになってる)
携帯電話でウェブブラウザを開けば、事件の詳細が記事という形で表示される。
二日前、午後6時ごろを境に全国の十代、主に中高生述べ数千人が行方不明になったという事件。無論、この高校も事件に無関係ではなく、二年の椎葉依桜、一年のオリヒメらが行方不明になっていた。それに、
(この事件、オレも無関係じゃない。だってそりゃあ、絶対にこれが絡んでるはずだろうし)
自身のスマートフォンにもインストールされている、狼を模るシルエットに雅志は注目する。
そのアプリの名は――、《Fenrir2》。
プレイヤーを特殊な空間、
試しに雅志が《Fenrir2》のアイコンに触れれば、画面はモザイクのような電子ノイズで埋め尽くされる。他のアプリは問題なく動作することから、これはスマートフォンの故障が原因ではないはずだ。当然のことながら、
(椎葉先輩……)
彼女から教えてもらった《Fenrir2》についてはまだまだ訊きたいこと、教えてもらいたいことが多い。それに、彼女そのものを何よりも知りたいのに。
それゆえ、雅志は勝手ながら椎葉依桜の素性を徹底的に調べてみた。すると驚きの事実が次々と明らかになっていったのだ。
(先輩は中学三年の秋まで、父親からの酷い虐待の被害に遭っていたらしい)
虐待の原因は離婚、リストラ、借金、社会的信用の喪失などの重り。
ただ、辛うじて父親から逃れた彼女は、高校入学を機に学校近隣のアパートで一人暮らしを現在までしているとのことだ。
(ひょっとしてオレにフェンリルを教えてくれたのも、そういう過去があったからなのかな)
他者の支配に苦しむ自分に共感して力を与えてくれたのかもしれないと、雅志は夕焼けの差し込む閑散とした教室でひっそりと息をつく。
凛々とした、時には掴みどころのなく立ち振る舞っていた先輩の意外なる過去。
(そうだったのか。先輩に……そういう過去が)
それに、2年前のあの時の記憶が頭によぎる。鮮明には覚えていないが、今の依桜の雰囲気とは違っていたとは思う。
(あの時の先輩はどういう気持ちだったのかな? うーん、考えてもわからん……。やっぱり先輩についてはわからないことだらけだ)
そのうえもう一つ、その件に関して心残りがあった。それは、
(父親と縁を切った時の発言なんだよなぁ)
――――これからは私が椎葉依桜だから。もう、あんたの好きにはさせない。
依桜が父親へ放った言葉だそうだ。娘から反撃に遭い重傷を負った父親の証言らしいので、間違いはないはずだ。それに、
「それまで虐待されていたはずなの娘が、なぜか容易く状況を覆した。特に凶器を使ったわけでもなく、純粋に真正面から。おかしくね? いや、フェンリルさえあればできなくもないか?」
《タイムコール》を巧みに用いさえすれば、常人を遥かに凌ぐことは誰であっても可能だ。
(けど、過去はともかく先輩はオレを助けてくれた人だ)
あの苦しみから救ってくれた彼女には、感謝してもしきれない。絶対に恩を返したい。それに自分の強さを見てもらいたい。認めてもらいたい。
しかし、懸念すべきことが一つ雅志にはあった。それは――、
(昨日から誰かがオレを監視している)
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