2章 〈ディメンジョナル・ゲーム〉
2-1
オリヒメという愛称は下の名が
――――深く入り組んだ夜の工場地帯、腰に絡む金髪が、金属の隙間から覗く月明かりによって妖艶に照らされる。闇色のスクールセーターを纏う彼女は、格子によって切り抜かれた夜空を思案顔で見つめている。その一方、彼女の足元には滑稽に悲鳴を上げる少年、辛うじて原形を留める黒炭と化した人間、ひいては首を撥ねられた死体が血だまりに浸るよう、サバイバルナイフやボウガンなどの凶器とともに転がっていた。
三人掛かりで挑んだ少年たちは決してプライドが低いわけではないし、弱いわけでもない。それでも彼らはたった一人の女子高生に、それも一歩も動かすことすら叶わず敗北を期した。
その彼女――、オリヒメが一太刀の西洋剣を、血を払うよう振るえば、〈ディメンジョナル・ゲーム〉終了の合図が鳴り響いた。
(最近多すぎ、私を狙ってくるプレイヤー。それも今回は三人で挑んできて)
千石雅志という同級生の男に敗北して以降、対戦を挑まれる回数が明らかに増えている。初心者でも倒せるなら自分でも、なんて甘い期待を抱いてだろう。
自身の固有能力『
(三人なんだからもっと協力すればいいのに。つまらないプライドなんて捨てれば? ま、協力なんてアドバイス、私にできることじゃないけど)
複雑なフィールドが紙芝居のように様々な次元へと変化する中、プレイヤー同士の協力が認められたチーム戦、〈ディメンジョナル・ゲーム〉。ルールは単純で、敵チーム全員を戦闘不能したほうが勝者だ。
(ったく、ほんと弱いんだから。ま、悪い気はしないけど)
鬱陶しい反面、ストレス発散の良い機会とも言える。ザコなんか潰して蹴散らせて喚かせて、溜まっている鬱憤を晴らせばいい。あの男に負けた気がかりなど不要だ。自分は決して弱くないのだから。
「まったく、なに考えてるんだろ私。たった一度負けた程度で。ただの偶然かもしれないし」
わずかに言葉を詰まらせながらも独り口にした彼女は、スマートフォンを手に取り、
「――――へぇ、剣を武器にするようになったんだ。カッコイイじゃない、似合ってるわよ」
声の方向、オリヒメが顎を上げれば、太いパイプの上で脚を組む、ライトを浴びた女子高生の姿が目に映った。肩にかかるシャギー混じりの黒髪、意志の強さが垣間見られる冴えさえした瞳、セーターとブレザーの違いはあれど同じ高校の制服着。
「椎葉……先輩。どうしたの、私に用?」
「たまたま見かけたから戦いぶりを見学させてもらったわ。どう、あれから元気にしてる?」
上級生の椎葉依桜とは《Fenrir2》を知る前からの顔見知りだ。とはいえ、それは姉の親友という間柄だけであって、オリヒメ自身と親しい交流があるわけではない。強いて言えばともに《Fenrir2》のプレイヤーであり、現状の関係はライバル、と評せばしっくりくるだろうか。けれども間柄が比較的近いせいか、依桜とは一度も対戦の経験がない。それゆえに彼女の固有能力、戦闘スタイルを実は知らなかったりする。
「おかげさまで。この剣はまあ、『
《Fenrir2》では一人一つの装備が許されており、オリヒメの持つような西洋剣のほか、護身用の盾、もしくは弓や拳銃など多種多様な武器が提供されている。『
「ミヤビくん、強かった? 私が送り込んだ刺客だけど?」
「ねぇ、なんであいつにフェンリルを教えたの? このアプリ、簡単に漏らしていいものじゃないでしょ」
依桜はふふんと、まるで気まぐれな猫のように笑うと、
「教えた理由? それはね、ナイショ」
「あっそ」
ぷいっとオリヒメは顔を逸らす。が、彼女はばつが悪そうに口元を尖らせて、
「この前は……保健室まで運んでくれて……ありがと。まだお礼は言ってなかった……から」
オリヒメが絞り出したお礼に依桜は目を丸くしたが、くすっと綻び、
「どういたしまして。なんだ、オリヒメちゃんにもかわいいトコがあるじゃない」
「なっ、誰がかわいいって……ッ」
「顔もかわいいしツンケン態度もね。全部ひっくるめて学校で一番かわいい女の子なのに」
「もう、からかわないでよ……」
いいように弄ばれるという経験の乏しいシチュエーションに翻弄されるオリヒメだけれども、
「それと最近、あの
後輩がしてくれた助言を前にふっと頬を緩めた依桜は、満月を背にバイバイと手を振って、
「忠告、ありがと。ま、オリヒメも
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