高校生~愛のお好み焼き~

雨季

お好み焼きの熱意は、愛さえ育むはず

 教室に入ると、隅っこの机から校庭を眺めている綺麗な女子高生が見えた。その瞬間、強い動悸と息切れをワシは感じた。

 

「今日は、昨日話していたグループワークをする。テーマは何でも良いからな。」

まるでもやしの様な体型をした教師は教壇からクラス全体を見渡しながら、セリフを読み上げる様に言った。

「兄貴!一緒のグループですね!」

まるでフランスパンの様な長いリーゼントをわしの額に付けそうなくらいに顔を近づけてきた。そんな舎弟の中で一番頭の悪い漆黒の有志から離れるように、少し後ろへ下がった。

「ねえ、テーマはどんなのにする?」

先程校庭を眺めていた佐藤さんは可愛らしい声でそう言った。

「なあ、お好みやきはどうや?」

大阪の有名野球チームの帽子を被ったパンチパーマの山田は耳ざわりに感じるくらいの大きな声で言った。

「良いね。私、お好み焼きは三度の飯よりも好きなんだ。」

天使のような微笑みを顔に浮かべながら佐藤さんは言った。それと同時に、また胸が苦しくなるのを感じた。

「なあ、お前らはどうなん?」

山田は満面の笑みを顔に浮かべながら、フランスパンの有志と俺の顔を見た。

「ええと思うで。」

広島県にある様々なお好み焼き店を脳裏に浮かべながら言った。

「兄貴が良いと思うんなら、俺もそのテーマで良いと思うっす!」

勢いよく、右手を上げながらフランスパンの有志は言った。

「よし!そうと決まれば、明日はお好み焼きの本場、大阪に行くで!」

その言葉を聞いた瞬間、眉間に皺が寄った。

「おどれ・・・何を言っとるん?本場のお好み焼きは広島に決まっとるじゃろ?」

そう言いながらわしは山田の胸倉を掴み上げた。

「はぁ?何を言いおるん?お好み焼きと言ったら、大阪。広島のは広島焼きやろ?あんなん、お好み焼きとちゃうし!」

山田もわしの胸倉を掴みながら言った。

「表出ろやコラァ!」

「やんのかぁ!」

怒声を吐き散らしながら暴言を吐いていると、フランスパンがわしと山田の間を割って入ってきた。

「あ、兄貴!此処は抑えてくださ・・・。」

止めに入ったフランスパンは山田とわしの拳によって吹っ飛んだ。

 結局、佐藤さん、パンチパーマ、フランスパン、ワシのグループは二つに分かれる事になった。パンチパーマとフランスパンは大阪のを・・・ワシと佐藤さんは広島のお好み焼きを調べる事になった。

 「兄貴!俺を置いていくとはどういうことですか!俺も、兄貴と一緒に広島のお好み焼きを調べたいっす!」

新幹線乗り場でフランスパンは目に涙を溜めながら縋り付いた。

「フラ・・・有志、わしはお前を舎弟の中で一番信頼しとる。」

「なら、何で俺を一緒に連れて行ってくれないんすか!」

フランスパンの肩に、優しく手を置いた。

「あいつはどう見ても高校生じゃない。わしと同じコネを使ってこの学校に入学した口じゃ。」

有志の耳元でそう囁いた。

「あ、兄貴!そ、それは本当なんですか!」

大きな声でそう言う有志の頭を叩いた。

「静かにせえ!そんな大声出しとったら聞こえるじゃろが!」

怒鳴ると、フランスパンはすいませんと言った。

「そこで、お前にはあいつがなんでこの学校に入学をしたんかを調べて欲しいんじゃ。」

すると、フランスパンは目を輝かせた。

「兄貴!分かりました!俺、兄貴の為にこの重大な任務を必ず遂行させてみます!」

まるで戦隊ヒーローのアニメを観ている子供の様な目をしながらフランスパンはパンチパーマと共に大阪へと旅立った。

ワシは手を振って見送りながら、可愛い佐藤さんと共に回る広島を楽しく想像した。

 「お好み焼きはこうやって食べるのが一番美味しいんじゃ。」

そう言いながら俺はお好み焼きをひっくり返して、鉄ヘラを佐藤さんに渡した。

「箸の代わりにこれを使って食べるんが一番うまいんじゃ。」

ソースをたっぷり塗り込みながら、食べやすいサイズに切り分けた。そして、佐藤さんの皿へと乗せた。

「美味しい!」

鈴のような綺麗な声色で佐藤はお好み焼きを食べた。そんな佐藤さんの姿を見て、自然と頬が緩むのを感じた。

「兄貴!俺の所へよく来てくれましたね!これは、来てくれた事に感謝の気持ちを込めて俺が兄貴の大好きなお好み焼きをご馳走します!」

この店の店主であり、舎弟の一人である次郎は大きなお好み焼きを持ってきた。その上には大量のソースが塗りたくられていた。

 「先生!」

無機質に感じられる病院の廊下で、佐藤は岡田が眠っている病室から出てきたヤブ医者に縋り付いた。

「岡田君は・・・岡田君は大丈夫ですか?」

泣きじゃくりながら、お好み焼きを口から飛び出させながら店の中で倒れた岡田の状態を聞いた。

「ただの食べ過ぎです・・・しかし、彼の血圧はもとから高め・・・。今回、お好み焼きに大量のソースを摂取したため・・・最低でも、血圧が元の数値に戻るまでは入院です。」

某チキン販売店のマスコットキャラクターのような髭を撫でながら声のトーンを落としてそう言った。

「そ、そんな!私が・・・あそこで止めなかったから・・。」

佐藤は泣き崩れるように、冷たい床にしゃがみこんだ、

「貴方のせいじゃありません。俺が、兄貴が来たことにはしゃいであんな物を作ってしまったのが悪いんです。」

そんな佐藤の肩に手を置いた。

「そんな事ないわ。私が全部悪いのよ!私が、あのお好み焼きを全部食べていたら、こんな事にはならなかったわ!」

そう言いながら佐藤は病院を飛び出した。

 「次郎、何度言ったら分かるん!この病院の医者はこの辺りでも有名なヤブ医者じゃ!何でこんな所に運んだん!」

ベッドの横で縮こまって座っている次郎を怒鳴った。

「兄貴!すいません!気が動転していました!」

涙を流しながら次郎は汚い病院の床に額を擦りつけながら謝った。

 学校に戻ると、フランスパンが泣きじゃくりながらワシの前に現れた。

「兄貴、すいません!俺が側にいながら何もする事ができなくて!」

腰を90度に曲げながらフランスパンは謝った。そんな後ろに視線を向けると、パンチパーマがバツの悪そうな顔をしているのが見えた。

「わいがあんな事いったんが悪かったんや・・。そしたら、こんなことにはならんかったんや・・・。」

そんなパンチパーマの姿が気の毒に思え、わしは奴の肩に手を置いて慰めた。

 グループ発表当日、行方不明になったままの佐藤を気にかけながらもわしらは黒板の前に立った。

「待ってください!」

そんな時、佐藤の大きな声と共に扉が開いた。そこに視線を向けると、初老のおばあさんが立っていた。

「これが、私たちの研究結果です!」

そう言いながら佐藤さん?は一枚のお好み焼きを出して、クラスの皆に配り始めた。

「私は・・・この研究を皆として、本当のお好み焼きとは人を美味しく健康にさせるものだと学びました。その為、このお好み焼きは塩分控えめにしてあります。」

そう言いながら佐藤はワシに向かってウィンクをした。

「さ、佐藤さんは・・・何処に・・・?」

すると佐藤?は満面の笑みを見せた。

「私、このグループワークで岡田君の事が好きになったの。それで、岡田君には私の本当の姿を知ってもらいたくて・・・化粧するのを止めたの。これが本当の私なの!岡田君!」

そう言いながら佐藤はワシに抱きついた。

「お、おどれは誰じゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

学校中にワシの声が響き渡った。

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高校生~愛のお好み焼き~ 雨季 @syaotyei

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