第9章 最後の商才編

第105話 停まった時間

 僕とジェニ姫の復讐により、黒幕のマリクは消滅した。

 王国に本当の平和が訪れた。




 一年後。




 ディオ王が王の座に戻り、国を治めることになった。

 王国はグランの圧政でボロボロだった。

 だが、ディオ王はその卓越した政治的手腕を振い、王国を復興させつつあった。

 僕はというと......


『ケンタ株式会社』


 僕の会社である二階建ての建物の看板には、そう書いてある。

 二階にある執務室で僕は仕事をしている。


「船長、『荒い熊の毛皮』は、メルル王国からどれくらい輸入出来そうですか?」


 左目に眼帯を当てた髭面のイカツイ船長はこう答えた。


「100枚は行けると思う」


 僕は考えた。

 荒い熊の毛皮は、コートや毛布の素材になる。

 今のうちに買い付けておくに越したことはない。


「もう少し、増やせませんか? 寒くなる季節に向けて需要があると思うので」

「分かった。交渉してみる」


 船長は頷いた。

 彼は僕がタケルの国でタピオカミルクティー屋をひらいた時、出資してくれた恩人だ。

 今は、僕の会社の幹部として働いてくれている。


「ケンタ、今いい?」

「何ですか? サチエさん」


 このキリッとしたお姉さんもまた、タピオカミルクティー屋に出資してくれた恩人だ。

 彼女も僕の会社の幹部だ。


「南イタヲ山に住む、十角じゅっかくドラゴンの討伐案件、いくらで募集する?」


 十角じゅっかくドラゴンはその名の通り、頭に十本の角を持った凶暴なドラゴンだ。

 最近、村を襲うことで有名だ。

 魔王がいようがいまいが、怪物との戦いは定期的に続くのだった。


「う~ん。1000万エンで」

「分かった」


 サチエは頷くと、足早に一階のギルドへ向かった。

 僕の会社はギルドも運営している。

 ありがたいことにディオ王から直々に仕事の発注が来る。

 そのお陰で、金銭的に困ったことは無い。

 サチエには、ギルドマスターをしてもらっていた。

 彼女のお陰で、ギルド運営は心配無かった。


「そうだ」


 十角じゅっかくドラゴン案件は、難易度が高そうだから成功したパーティには特別ボーナスを出そう。


「さてと」


 一通り皆に指示を出し終わった僕は席を立った。




「しっかりやってるみたいだな」


 街の真ん中にある魔法学校。

 魔法剣士のカズシが、生徒達に魔法武器の使い方を教えている。

 僕がチナツの国で作った魔法学校は評判を呼び、王国の様々な街で開校している。

 街には僕が関わった商売が沢山活動していた。

 正確にはケンタ株式会社が関わったものだが。

 僕の会社は社員数一万人の大企業になっていた。(ちなみに、株式会社という概念を持ち込んだのは僕が初めてだ。それを参考にして、王国には数々の会社が興った)

 

 工場に倉庫、飲食店に、遊園地。

 直接関わったものも、間接的に関わったものも、気になるので毎日様子を見て歩く。


 そして、僕はある場所まで行くと歩を止めた。


「あっ、ケンタさんお疲れ様です」


 栗色の髪が揺れる。

 顔上げると猫の様に大きな目が輝いていた。

 治癒魔法使いのシヲリだ。

 彼女はコブチャの国で色々と世話になった。

 今は僕の作ったこの病院で、女医を務めてくれている。


「ジェニ姫の容体はどうですか?」

「......いつも通りです」


 僕とシヲリが毎日交わす、変わらぬやり取りだった。


「でも、今日はちょっと右手が動いたんです」

「え?」

「は、はい。微かにですけど」


 僕の大きな反応に、シヲリが気圧されている。

 彼女が僕に気を使っているのが良く分かる。

 ジェニ姫は僕が知っている限り、あの日からピクリとも動かなくなった。


「ジェニ姫......」


 西日が差す病室。

 全てがオレンジに染まっている。

 瞼を閉じたままベッドに横たわるジェニ姫。

 僕は彼女の手を握った。


つづく

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