第106話 僕の生きがい
ジェニ姫の意識は一年前から失われたままだった。
「いくらマリクが悪い奴でも、ズルをして倒したからバチが当たったのかね」
僕は冗談ぽく、ジェニ姫に語り掛ける。
だけど、彼女の瞼は閉じたままだ。
唯一の救いは、彼女が美しいままだということだ。
ジェニ姫の枕元に置いてある物体。
僕は視線を、それに向けた。
その物体は、黒い横長の四角形で真ん中に数字が表示されている。
『521/9999』
僕が眺めている間にも、520、519、518と不規則な時間間隔で数字が減っている。
「ケンタさん。ポーションの時間です」
注射器を持ったシヲリが入って来た。
シヲリは寝間着姿のジェニ姫の腕を取り、袖を肘までまくり上げた。
針を腕に当てる。
血管を通して、ジェニ姫の身体中にポーションが行き渡る。
黒い横長の四角形の物体、つまり『HP測定器』に表示された数字が徐々に上がって行く。
ものの数秒で9999にまで達した。
「これでまた、24時間持ちますよ」
シヲリがジェニ姫の腕を消毒しながら言う。
彼女の身体は勝手にHPが減って行く。
意識を失ってからずっとそんな状態だ。
それはつまり、放っておくと死ぬということを意味していた。
「ハッキリしたことは言えませんが......チートして強化した身体には相当な無理が掛かっているのではないでしょうか。だから、生命を維持するだけでHPが減って行くのかなと......」
この現象に対してシヲリは彼女なりに考えた説を、僕に教えてくれた。
「ケンタさん。大変ですね」
「いえ、そんなことありません。僕は幸せです」
定期的にポーションをジェニ姫に投与する生活。
それは僕にとって大変なことだった。
ポーションは『スライムの欠片』から作られる回復アイテムだ。
ジェニ姫のポーションは『スライムの欠片』を大量に使い、濃縮させた特注品だった。
ジェニ姫のHPはその特殊なポーションでしか回復しないのだ。
特注なだけに、当然、素材の値段も、作る金も掛かる。
それらの費用は僕の会社の儲けをほとんど食いつぶしていた。
だから、僕は会社が発展して莫大な利益を得ても、未だに掘立小屋に寝泊まりしていた。
食事も、卵掛けご飯だけの質素なものだ。
だけど、僕は本望だった。
全てはジェニ姫のためだ。
彼女は僕の生き甲斐だった。
つづく
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