第103話 エンディング
「ズルしたんですか?」
僕はおずおずと問い掛ける。
「ズルとか人聞きの悪いこと言わないでよ」
ジェニ姫が頬を膨らませる。
チートと言えば、ゲームで言うところのズルのことだ。
例えば、ゲームの不備を突いて、キャラクターのステータスをカンストさせるとか、強いアイテムを手に入れるとか。
現実の世界にも、そういったことがあるのだろうか。
「数日前、家を留守にしましたよね?」
「うん」
「その時、チートの実でも食べに行ってたんですか?」
「ふふふ、まあそんなとこね」
ジェニ姫が意味深に笑う。
「その前に、この話をしておこうかな」
そして、ローブの内ポケットから長方形の物体『ゲーム』を取り出す。
「これ、やっとクリア出来たんだ」
「おお、ついに」
僕は驚いた。
あの誰もクリア出来なかったゲームをクリアするとは。
「エンディング、見せてあげる」
ジェニ姫はそう言うと、STARTボタンを押した。
画面に、モードが表示される。
START
CONTINUE
ENDING
クリアすると、ENDINGモードで何度もエンディングが見られるらしい。
ジェニ姫はENDINGを選んだ。
ジェニ姫のプレイ記録から、特に素晴らしかった場面(ゲームの独断だが)が次々表示される。
最後は、魔王との戦いの場面だ。
魔王の鋭い牙や角、吊り上がった目などがドットで毒々しく描かれている。
主人公が魔王を光の剣で攻撃している。
魔王は光の剣での攻撃しかダメージを受けない。
だから、光の剣はゲーム攻略の上で必須アイテムだった。
その存在はプレイヤーの間で広まっていた。
だけど、誰も手に入れることが出来なかった。
「光の剣は、ゲーム終盤に現れる魔導士から手渡されるの。だけどその条件が難しくて。まず、パーティを組んでいないこと。つまり勇者一人でプレイしていること。もう一つは勇者の性別が女であること」
魔王のHPが下がって行く。
遂に0になった。
魔王が光り輝き、画面が真っ白になる。
次の瞬間、ドットで描かれた紫色のローブを着た賢者が現れた。
荒いドット絵だけど見覚えがある。
「マリクですか?」
「そう」
ゲームの中のマリクがこう言った。(実際はメッセージが流れている)
「ジェス姫、よくぞゲームをクリアしてくれました。ありがとうございます。このゲームはあなたなら楽勝でクリア出来る様に作りました。なぜなら、ゲームの中には君の好きなものや、行きたい場所、好きな物語を散りばめたからです。だから、あなただけが自然と謎解きを楽しんでクリア出来る様になっています」
ドット絵のマリクは得意げだ。
「ゲームはマリクが作ったんですね」
「そう。きっとジェス姉に直接告白するのが恥ずかしかったからゲームの中で告白しようとしたんじゃないの? 意外に小心者よね」
ジェス姫にプレイして欲しいゲームは、運命のいたずらによってジェニ姫の手に渡った。
そしてゲームは、今や全世界の人々がプレイしていた。
ゲームの中のマリクは最後にこう続ける。
「私は、あなたがゲームをクリアするのを、ずっと待っていました。このメッセージを読んだら、ガクシャケンの丘まで来てください。あなたが欲しかったチートの実を持って、待っています」
つづく
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