第102話 君が動かないこと、それが攻略法

「ケンタ......今まですまなかった」


 あのグランが僕に頭を下げている。

 彼の目はすっかり改心したかの様に見える。


「どこへでも二人で行けばいい」


 僕はそう言うと、踵を返しジェニ姫の方を向いた。

 彼女は無言で頷いた。

 この場を去って行く二つの足音が僕の耳に響く。


 さよなら、マリナ。


「もう。男の子が泣かないの」

「......だって」

「私がいるでしょ」


 そう言うと、彼女は背伸びして僕の頭を撫でた。(ジェニ姫は僕よりちょっとだけ背が低いのだ)

 心が癒される。

 そう思ったのも束の間、空に暗雲が垂れ込めた。


「そろそろ来るわよ。本当に復讐すべき相手が」


 風が吹く。

 ジェニ姫の白いローブがはためいた。


「ケンタ君」

「はい」

「ここから先は、私に任せて」

「はい」


 雷鳴が轟き、瞬間、地面に穴が穿たれる。


「うわわわ」


 怯える僕に、ジェニ姫が手をかざす。


対魔法保護マジックプロテクト


 僕の身体が光に包まれる。


「な、何です? これ?」

「この結界の中だと、私が死なない限り安全だから」


 周りが光り輝いていて良く見えない。

 辛うじてジェニ姫のシルエットが見えるだけだ。


「ジェニ姫、動けません!」


 足が地面に張り付いたかの様に一歩も前に踏み出せない。


「わざとそうしたの」

「え?」

「私がピンチになると、君がいつも助けに来るから」

「だ、だけど......」


 シルエットのジェニ姫が一瞬笑顔に見えた。


「毎回、来るなって言っても来るし。それはいつも、すっごく嬉しいことなんだよ。だけど、私を助けに来た君はいつもマリクに殺されるんだよ」

「僕が......」

「私、その度に、わざとマリクに倒されてたんだから」

「え?」


 どういうこと?


「だって、君がいない人生、意味が無いもん」


 シルエットのジェニ姫は一呼吸置くと、こう言った。


「だから私を信頼して、ずっとそこで待ってて」


 シルエットが消えた。

 僕はじっとしているしか無かった。

 今、ジェニ姫とマリクが最後の戦いを繰り広げている。

 だけど、この光の結界の中にいる僕には、その音も聞こえない、その姿も見えない。




 光の結界が解け、目の前の風景がクリアに広がる。

 それまでの暗雲はどこへやら。

 雲一つない青空に浮かぶ太陽が、大地と僕とジェニ姫を照らしていた。


「勝ったよ」


 ジェニ姫の顔には傷一つ無かった。

 ローブも汚れ一つ無い。

 時間にして一分程度。

 そんなわずかな時間で、あのマリクを消滅させた。


「す、すごいですね」

「当たり前じゃん。ケンタ君がでしゃばらなければ、15ループ目辺りで勝ててたんだから」

「すいません」

「ふふふ」


 ジェニ姫は悪戯っ子のような笑顔でこう言った。


「チートしちゃった」


つづく

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