第101話 正しい選択

 ジェニ姫はひとしきり話すと、僕に留守を任せて出て行った。

 次の日の朝には帰ってくると言い残して。

 僕は彼女に言われた通り、家で大人しくしていた。


 そして、彼女は約束通り次の日の朝、帰って来た。

 その白いおもては、どこかやつれていた。


「大丈夫?」

「うん」

「何して来たの?」

「秘密」


 ジェニ姫は僕の肩をポンと叩いた。




 グランの城。

 今やそこは瓦礫の山と化していた。

 僕の元に集った6人のカンストメンバーのお陰で、グランを追い詰めることが出来た。(彼らはあっさりギルドに集まっていた)


「じゃ、これで」


 6人のメンバーは僕に手を振って去って行った。

 ジェニ姫の話だと、毎回のことらしい。

 僕が報酬を満額払えないから、彼らはここまでしか付き合わないのだそうだ。


「さて......」


 ジェニ姫が瓦礫の山の中でへたり込んでいるグランを見下ろす。

 彼は全てを失い、そして深手を負っていた。

 彼の栄華は過去のものとなった。

 彼はすっかり戦意喪失していた。


「ケンタ君。これから君にとってものすごく辛いことが起こるけど、負けちゃだめだよ」


 ジェニ姫がそう言った。


「......はい」

「ケンタ君がどんな選択をするかで、この先の未来が変わる。私は正しい選択を知っている。だけど、私はケンタ君に指図しない。だって、ケンタ君は私が指図しなくても、この場面でだけはいつも正しい選択をするから」

「え?」


 僕の身にこの後何が起こるんだろう。

 そして、僕は一体、何を選択するんだろう。

 僕がやることは、グランにとどめを刺す。

 彼の弱点である首を狙う。

 それだけだ。

 

「マリナさん、どいてください。あなたは魔法の力で騙されているのです」


 グランの側には僕の愛すべき人、マリナが寄り添っていた。


「いやです」


 僕を睨みつけるマリナ。

 怒りを宿した瞳に僕の姿が映り込んでいる。

 一瞬、思った。

 マリナの心は魔法とか関係なく、僕の心から離れてしまったのではないか?

 否、そんなことはない。

 僕は無言で剣を振り上げた。


「私にはグランの子供が宿っているんです!」

「え!?」

「だから、許してやってください」


 グランに覆いかぶさったマリナは大声で泣いていた。

 マリナのその言葉で、僕は剣を鞘に収めた。

 考える必要なんて無かった。

 マリナの子供を父親無しにするわけにはいかない。


「私はケンタ君のそういうところが好きなんだよ」


 ジェニ姫がポツリとそう言った。


つづく

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