第90話 また会おうね

 マリクはいつまで経っても仕掛けて来ない。

 それがかえって不気味だった。

 お手並み拝借、といったところですか?

 余裕ですね。


「ずっと私を倒してくれる人を探していた」


 はぁ?

 何言ってんだこいつは?


「数々のモンスター、魔王ハーデン、そしてケンタ……誰も私を倒すことが出来なかった」


 伏し目がちに、寂しそうにつぶやく。


「意味分かんないんですけど?」


 私は首を傾げ、吐き捨てるように言ってやった。

 随分な妄想家、自信家だなあ。

 ハーデンはパーティの一員として倒したんでしょ?

 それに、過去、何度もループしたが、マリクとケンタとは戦ったことが無い。 


「一発で決めるわよ」


 私は右手の人差し指を立てた。

 そう、魔法一発で終わらせる。

 その理由は、こう。

 一回目のループで、ヒットした偶然の一撃。

 あの出血でマリクは相当なダメージを受けたように見える。

 グランの剣で弾かれる様な、あの程度の魔法で。

 だから、マリクはHPが極端に少ないはず、おそらく100くらい。

 大丈夫。

 私は自分に言い聞かせる。

 一発で仕留めたいもう一つの理由。

 勝負が長引けば長引くほど、使える魔法の種類が少ない私の方が不利になる。(手の内が全て知られるという意味で)


「愛の力に目覚めたあなたなら、私を倒せるかもしれません」


 両手を広げるマリク。

 賢者の余裕か。

 私は、詠唱しながら地を蹴った。

 大丈夫。

 この距離なら唱え終わる頃、丁度、マリクのその懐に一気に飛び込み終わり魔法が発動されている。

 奴の心臓をこの手で凍らせる。


 

 そう--

 ならなかった。



 無数の髑髏どくろの口から伸びた触手が私の身体を捉える。

 マリクは詠唱していなかった。

 たったそれだけの時間差で、マリクの魔法の方が私のそれより早く発動された。

 私はあと一歩のところで、彼の魔法にかかっていた。


「なっ、なんで?」

「これですよ。姫、これです」


 マリクはローブのポケットから長方形の物体を取り出した。

 黒い物体には、中央に透明のガラスの様なものが付いている。

 その下には小さなボタン。


「何それ?」

「魔法発動機械です。ここに唱えたい魔法をあらかじめ登録しておけば、詠唱する手間も、魔法陣を描く手間も省けます。ボタン一つで発動出来るんですよ。魔法を使う者なら、どう効率良く発動出来るか工夫しなければダメですよ」


 説教された。

 それにしても、どんな原理だよ……。

 私は髑髏の口から伸びる触手に四肢を捉えれたまま、マリクの手にあるその機械に技術的興味をそそられた。

 もしかしたら、最初にゲームを作ったのはこいつかもしれない。


「あなたでも、無理だったか」


 マリクは残念そうに言うと、魔法発動機械の下方にあるボタンを押した。

 透明のガラスに『雷撃ライトニング』と表示された瞬間、私の身体を閃光が貫いた。


「きゃああああっ!」


 圧倒的な痺れが脳天から足の爪先まで、貫く。

 痺れが止んだ瞬間、激痛が体中を襲う。

 髑髏の触手が勢いをつけ、私の身体を天に放り投げる。

 このままだと地面に落下する。


 この城壁を昇って来たんだな。

 落下しながら、場違いな感慨に浸る。


 やっとケンタと相思相愛になれたのに。

 ケンタの髪の匂い。

 手の平の暖かさ。

 守ってくれた時の背中。


 このループで……

 もう一度会いたい。


 後頭部に衝撃を感じ、気を失いそうになる。

 地面だ。

 隣には、顔を血で濡らしたケンタがいた。


 良かった。

 会えた。


 ごめんね。

 また、君の復讐を達成出来なかったよ。

 次のループでは、また一緒に……


 お互いのこと大好きになろうね。


 私は意識を手放し、死んだ。



 だけど、ずっと暗闇のままだった。


姫のラブソング編 おわり

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