第7章 賢者の人生編
第91話 マリクの自殺
高いところが好きな私は、尖塔の天辺まで登り地上を見下ろしてみる。
先程まで勝負していた(勝負といっても一方的な私の勝利なのだが)ジェニ姫が倒れている。
その横に、元雑用係のケンタ。
二人の死体の周りには、黒い軍服の親衛隊の死体の山。
「今回はまた、違った感じの戦いだった……」
いつもの彼らなら、グランの間で戦い、グランに殺されるのがオチだった。
今回は中庭での死闘から、グランを一気に飛び越して私と一戦交えることになるとは。
それにしても、ループするごとにジェニ姫とケンタの関係が変化している。
今回のループでは、一方的だったジェニ姫の思いをケンタが受け入れる様になっていた。
「まさか……」
私は地上に降り立つべく、尖塔から飛び降りた。
身にまとうローブを膨らませ、落下傘の様に緩やかに地上を目指す。
丁度、ジェニ姫の横に足が着いた。
安らかな死に顔には、微かに笑みが浮かんでいた。
その顔には、私が愛したただ一人の女性、ジェスの面影があった。
私は、ジェスが彼女の恋人と駆け落ちしたのを知ったその日、自殺した。(でも、こうして今も生きているのは、私のあるスキルのせいだ)
私はジェニ姫の死に顔に見とれていた。
何とか我を取り戻し、首を横に振る。
過去の思い出を振り払った。
魔法発動機械を取り出し、ボタンを押す。
「
画面にそう表示されると、ジェニ姫から50cmほど上方に文字が浮かび上がる。
彼女のステータスだ。
Lv.5999
スキル :水属性の魔法(最上級)、召喚魔法(下級)、生前の記憶
攻撃力 :5104
防御力 :2567
HP :0
MP :1024
素早さ :5910
知力 :6213
運 :3501
「生前の記憶……」
そうか。
ジェニ姫は私の血を大量に浴びたことで、私のスキルの一部を受け継いだのだ。
ループするたびに、彼女達の戦い方が変化して行ったことにも説明がつく。
「可哀そうに……」
私は彼女の白銀の髪を優しく撫でた。
今頃、彼女は暗闇の中をさまよっていることだろう。
いつ、ループ出来るのかと……。
「ジェニ姫、残念だがあなたが死んでもこの世界はループしません。あなたは勘違いをされています。あなたの死が世界をループさせているのではなく、私の自殺がこの世界をループさせているのです」
無駄と分かっていても、死体に向かって噛んで含める様に教えてあげた。
私は魔法発動機械を手にした。
ターゲットを自分に設定する。(通常は向かってくる敵にターゲットを設定するので、これは異常な設定である。だから、魔法発動機械が警告音を上げているが、私は一向に構わない)
選択した魔法はジェニ姫を葬った「
自ら死刑執行人となり、刑発動のボタンを押下する。
魔法発動機械から発せられる雷撃は私を一撃のもとに葬った。
私のスキルが発動する。
『死に戻りの無限ループ(自殺した場合のみ) セーブポイント付き』
ランダムな長さの暗闇の時間を経て、世界は私が設定したセーブポイントまで巻き戻る。
今度こそ、私を倒してください。
つづく
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