第63話 勇者グランの愛の物語 その3
魔王討伐パーティを組んだばかりの頃、俺はどちらかというとケンタよりも弱かった。
そもそも、パーティはディオ王のお眼鏡にかなったマリクを中心に結成された。
ギルドで強くも無いのに勇者気取りだった俺に声を掛けて来たのがマリクだった。
何で俺を選んだのか訊いたら
「強いて言うなら風貌が勇者っぽいから」
確かに俺は、精悍な顔つきだし身長も高く女にもモテた。
だが、仲間にした理由がそれだけかよ。
表向き俺をリーダーという形にして、マリクはメンバー集めを始めた。
イケメンの俺が爽やかな挨拶と共に声を掛ける。
皆、好印象を抱きパーティに加わってくれた。
「次はあいつだ」
そしてマリクが、最後に選んだのがケンタだった。
あいつは街の片隅で、背中にたくさんの荷物を背負い行商みたいなことをしていた。(今思えば、孤児院の資金稼ぎのためにガラクタでも売りさばいていたんだろう)
「正気か?」
あんな弱そうな奴、入れてどうするんだ?
不思議がる俺に、マリクはこう答えた。
「パーティには何でもやってくれる雑用係が必要だ。それに、あいつは面白いおもちゃだからな」
後半部分は何を言ってるか分からなかったが、まあ、マリクに従って声を掛けた。
ケンタは一度は断った。
だが、マリクを通してディオ王から勅命を出してもらい、強引にパーティに引き込んだ。
「よ、よろしくお願いします」
オドオドしたケンタを見てると、俺はイライラして来た。
賢者マリクは『
俺とほとんど変わらないステータスに愕然とした。
目の前の卑屈な男と、俺が同レベルだという事実が、胸を締め付ける。
そして、旅立つ前の晩。
「グラン、ちょっと来い」
宿舎でメンバー全員が寝静まったことを確認したマリクは、俺をそっと起こした。
「お前とケンタ、どっちにしようかちょっと迷ったけど、私はお前をカンストさせることにした」
そう言うと、俺の頭頂部に手をかざし、詠唱する。
光の輪が、俺のつむじから現れる。
それが大きくなり俺の身体をすっぽり包むと、力が漲って来た。
「明日からよろしく頼むぞ」
次の日、魔王討伐の旅が始まった。
俺はリーダーとしてパーティの先頭に立ち、数々のモンスターを打ち破って来た。
マリクの魔法のお陰で、得られる経験値は他メンバーの5倍から10倍だった。
伸びしろも通常じゃ考えられないくらい準備されていた。
俺は日々、自身が成長していくことに快感を感じていた。
モンスターがアイテムをドロップする確率も、他メンバーとはけた違いに高い。
ただ、いつも疑問だった。
なんで、マリクはケンタじゃなくて俺を選んだのか。
あの時、マリクが気まぐれを起こしたら、俺じゃなく、ケンタが選ばれていたのでは……
そう思うと、俺はぞっとする。
「グラン。お前の夢が叶うぞ」
相談しに来た俺を、マリクが笑顔で迎えてくれた。
「それって……」
俺はマリクが手にしている小瓶を指差し問い掛けた。
「惚れ薬だ。遂に完成したぞ」
つづく
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