第62話 勇者グランの愛の物語 その2

 マリナとケンタが誓いの口づけをする寸前で、結婚式をメチャクチャにしてやった。

 力づくで俺はマリナを奪った。

 ケンタは自分の妻を助ける事すら出来ず、無様に地面に突っ伏すだけだった。


 その日から、マリナと俺は同じ屋根の下(城)で暮らすことになった。

 彼女にはアンティーク調の家具で彩られた広い部屋を与えた。

 豪華な食事も与えたし、召使いも何人も当てがった。


「私には、そんなものいりません。それよりも、今すぐケンタの元に帰して下さい」


 俺は自分の思いが通じなかったことに怒りを感じた。

 愛しさと憎らしさがない交ぜになった複雑な感情が胸に湧いて来た。

 思わず手を出しそうになるが、寸前で思い留まった。


 俺は地道な努力を続けた。

 彼女の心を振り向かせるために。

 だが、いつも彼女の心はケンタの元にあった。

 俺は賢者マリクがいるブーコック市に向かった。


「マリク、俺はケンタを殺す」


 奴は今、スライム島にいる。

 奴が死ねば、マリナの気持ちも変わるはずだ。


「やめておけ」


 マリクは首を振った。


「なぜだ?」

「そんなことをすれば、マリナは後追い自殺するだろう」


 俺はマリナの気持ちを知っているだけに、そのことを否定出来なかった。

 そして、そこまでマリナに想われているケンタに嫉妬した。


「くっ……あんな雑用係が……」


 俺はマリナを振り向かせるために強引な手を使った。

 まず、彼女を地下の牢獄に閉じ込めた。

 暗くジメジメした石畳の地下牢で、何日も食事も与えず放置した。

 マリナが音を上げて泣きついて来るまでだ。

 だが、何日経ってもマリナは無表情のままだった。

 その内、見る見る痩せて行き、白いおもてが更に白くなっていく。

 俺はマリナが死ぬんじゃないかと心配になり、牢から出してしまった。

 何のことはない、俺が音を上げただけだった。

 愛する人をこんな目に合わせるなんて。

 泣きながら謝罪する俺の頭を、そっと撫でてくれた。


「よいのです」


 こんな俺を許してくれる何て、どこまで深い優しさを持った女なんだと思った。

 俺はますますマリナに惚れこんでいった。

 だが、彼女の心は変わらなかった。





「マリク、俺はどうしたらいい?」


 俺はマリクにいつも相談する。

 カンストの俺を創り上げ、魔王を討伐出来たのは、実はこの男のお陰だからだ。


つづく

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