第4章 武闘家の国編

第58話 ゲームはロストテクノロジー

 ジェニ姫と僕は砂漠の中を歩いていた。

 北の国を目指していた。

 ラクダに乗ったジェニ姫。

 僕はそのラクダの手綱を手に、歩いている。


「......グランは今も私達を監視してるってこと?」

 

 ジェニ姫は眉根を寄せ、僕を見下ろす。


「うん」

「復讐されに来るのを待ってるってこと?」

「そうなります」

「何のために?」

「分かりません」


 暑い中、10kmも歩いてへとへとだ。


「はい。お水」


 ジェニ姫が手の平に乗せた水の球を僕に渡す。

 僕はそれを飲み干して、喉の渇きを癒す。


「貴重な水よ。この辺は大気が乾燥してて、水分子が少ないんだから」

「ありがとうございます」


 ツンケンしてるけど優しい。


 魔法学校で稼いだ金は、トールスにほとんど手渡した。

 復讐に参加したいと言う彼を説き伏せるのは苦労した。

 彼には、西の国の統治と魔法学校の運営を頑張って欲しい。

 それに、グランの考えが分からない以上、多くの人を巻き込みたくない。


「グランの奴、悪趣味ね。私達が右往左往してるところを、安全などこかから見て、ほくそ笑んでるって訳ね。まるで、私達をゲームかなんかのプレイヤー扱いしてるんだわ」

「ゲーム?」


 聞き慣れない単語だ。


「これ」


 ジェニ姫はまとっているローブの内ポケットから、横長の箱みたいな物を取り出した。

 箱の真ん中には、透明な四角いガラス(この例えが正しいのか分からない)に覆われていて、その右には十字架の様なボタン。

 左にはAとBと書かれた丸いボタンが二つ付いている。

 四角いガラスの下には、STARTと書かれた横長ボタンと、その隣にRESETと書かれた横長ボタンがある。

 更に、箱の右角にはRというボタンが、左角にはLというボタンが付いている。

 

「これがゲーム?」

「うん」

「はぁ......」


 ジェニ姫はSTARTボタンを押した。

 真ん中の透明ガラスに、『ゲーム』と赤い文字が浮かび上がる。


「おお!」


 軽快な音楽が砂漠に鳴り響く。

 ピコピコって感じ。

 全く聞き慣れない音で作られた音楽は、耳に心地良かった。


「主人公を操作して、こうやって冒険して仲間を集めて、魔王を倒すの」


 ジェニ姫は慣れた手つきで、十字架とA、Bボタンを使って、透明ガラスに映った人型(駒?)を操作する。


「今の僕達が、これ......ですか」

「ふふふ。何度でも遊べるの。自分の行動で敵の行動も変わるから、毎回違う冒険が楽しめるのよ。もう1000回は遊んだわ。でも一度もクリアー出来ない」


 ジェニ姫はこのゲームを子供の時、城で見つけたらしい。


「お父様の玉座の下に置いてあったの」


 それ以来、暇な時はこれで遊んでいた。


「でも、これどうやって動いてるんですか?」

「これ」


 ジェニ姫の手には銀色の箱が握られていた。


「電気」

「電気?」

「正確には雷の魔法」


 ゲームで遊ぶために子供の頃のジェニ姫は、知恵を絞った。

 それこそ、中身を分解してみたりもした。

 そして、ある日、電気でゲームが動くことが分かった。

 ジェニ姫は電気の元である雷の魔法の初歩を習得し、『携帯充電器モバイル・バッテリー』という魔法機器を開発。

 ゲームは今も携帯充電器モバイル・バッテリーで動いている。


「でも、凄いですね。こんな技術、今のこの世界にはないですよ」

「過去を遡ってもね」


 ジェニ姫はこのゲームという物のルーツを探るため、城にある文献を読み漁った。

 歴史書、百科事典、数学、工学、哲学、魔法学。

 だが、そのどのページにもゲームについて書かれていなかった。


「恐らく、この世界じゃない誰かがやって来て置いて行った物なのよ。でないと、この世界の歴史と技術じゃ、このゲームは作れない」


 僕はピコピコと音を出すゲームを覗き込んだ。

 主人公が敵と戦っている。


つづく

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