第57話 お釈迦様の手の上

 天井がバキバキと崩れ、粉塵と共に光の球が降り注ぐ。

 それが、石畳の地面に衝突し周囲に振動を伝える。

 チナツとトールスがさっきまでいた場所には大きな穴が開いていた。

 二人は少し離れた場所で、その大きな穴をじっと見ている。


「大丈夫?」


 チナツが心配そうに声を掛ける。


「ああ」


 僕は応えた。

 僕は光の球が当たらない様に、二人を安全な場所に突き飛ばした。

 予想通りだった。 

 グランの弱点を言いそうになったチナツに攻撃フラグが立った。

 だから光の球が飛んで来た。

 皆、そうだった。

 タケルもコブチャもグランの弱点を僕に言いそうになると、殺された。

 そして、今、チナツも。

 ということは、グランは僕を監視しているということか?

 だとするなら、僕を泳がせている理由は?

 なぜ、復讐しようとしている僕を殺さない?


「うわあああああ」


 僕は混乱した。


「ケンタ......」


 僕の肩をジェニ姫が優しくポンと叩く。

 手の平の暖かさが全身に伝わった。


「ここは閉鎖空間。外から攻撃された場合、逃げる場所が限られてる。とりあえず、外に出ましょう」

「う、うん」


 ジェニ姫のお陰で何とか僕は立ち直った。


「チナツ、トールス、外に出よう」

「う、うん。でも、一体さっきの攻撃は何なの?」

「それは......。後で。安全な場所で僕の知ってることを話すよ」


 穴の外側を歩きながら、二人が僕の方に向かってくる。


「あっ!」


 僕が叫ぶのと同時に、石畳の床を光の矢が貫く。

 それは、チナツの身体の中心を貫いた。

 矢は天井まで伸び、末端に行くほど太くなる。

 矢が空に消える頃には、チナツの身体は真っ二つになっていた。


「ああっ!」


 僕は思わず声を上げる。

 グランよ。

 君はかつての仲間達が用済みになれば、こうして殺してしまうのか。


「ルビー様!」


 千切れ飛んだルビーの欠片をトールスが必死で集める。








 次の日、僕は西の国を後にした。




魔法使いの国編 おわり

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