第54話 愛の言葉を紡ぐ時

 チナツの城の最上部。

 そこにあるチナツの玉座がある大広間。

 普段は兵士達を集めた評定や、賓客を迎えての優雅な舞踏会や食事会が行われる場所だ。

 だが、今そこは、修羅場と化していた。

 モンスターと兵士達が入り乱れている。

 身長10メートルはあるゴーレムが、その太い腕で兵士達を蹴散らしていく。


「ぐわっ!」

「ぎゃっ!」


 吹っ飛ばされた兵士達は、石壁に激突した。

 まるでトマトみたいにグチャッと頭を潰した。


地面氷化アイシング・グラウンド!」


 丁度、キメラを水の矢で倒したジェニ姫が、振り向きざまにゴーレムの足元に向かって唱える。

 大気中の水分が地面に集まり、ビキビキと音を立て凍る。

 一瞬でゴーレムの爪先から膝の上が氷で固まる。 

 まるで氷の足かせだ。


「グッグウオオオ!」


 ゴーレムは氷を砕こうと上半身に反動をつけもがく。


「チッチッチッ。無理無理。私の作り出した氷はダイヤモンドより硬いんだから!」


 と、ジェニ姫は得意げに、人差し指を口元で振りながら言う。


「ナイス。ジェニ姫」


 ミノタウロスをステーキに仕上げたチナツが、ゴーレムに向かって唱える。


烈火爆発バーニング・エクスプロージョン!」


 チナツの手から真っ赤な火球が飛び出す。

 それがゴーレムの胸部にぶち当たると、火球の中心部が四方に割け、一気に火花を散らしながら爆散する。


「あっつぅ!」


 僕はジェニ姫が作ってくれた水の結界の中にいたけど、それでも熱い。


「ゴーレム! 怯むな! 氷が解けて来てるわ! 早く! 戦いなさい!」


 サオリが一歩離れたところで、自ら手なずけた召喚獣たちを叱咤する。

 だけど、無理ってもんだろう。

 ゴーレムは今の攻撃で、真っ黒な燃えカスになっちゃたよ。


「ありがと。ジェニ姫」

「こちらこそ」


 ジェニ姫とチナツのナイスコンビプレー。

 他に目を転じると、兵士達が苦戦しながらも一つ目の巨人トロルを倒していた。

 怯えた子ケルベロスはサオリの元から離れようとしない。

 あと、もう一体いたよな……モンスター。


「あっ!」


 天井からボトリと3メートルくらいの物体が落ちてくる。

 緑色のドラゴン。

 天井と同じ模様で気付かなかった。

 同化していたんだ。


「危ない!」


 僕の叫びも虚しく、チナツは気付くのが遅かった。

 ドラゴンの鋭い爪が彼女の頭上で煌めく。


グチャリ!


 肉がえぐられる音がする。

 僕は怖くて閉じていた目を、恐る恐る開けた。

 そこには、ドラゴンの爪で胸を一突きされたトールスがいた。

 そして、彼に守られたチナツがいた。


「トールス……」

「ルビー様、お役に立てて嬉しいです」

「私のために……」

「私はあなたのことが……」


 言っちゃえ、言っちゃえ。トールス。

 チナツを救えるのは君だけだ!


ブンッ!


 トールスは愛の言葉を紡ぐことは出来なかった。

 ドラゴンがその太い腕で、トールスを壁に叩きつけたからだ。


「ドラゴンよ! ここにいる私の敵、全てを殺しなさい!」


 サオリが使役するドラゴンは強力だった。

 ジェニ姫、チナツの二人の魔法使いの力をもってしても、ドラゴンに劣勢を強いられている。

 紛れもなくサオリは優秀な召喚魔法使いだった。

 だが、狂っていた。

 強力な力は、それを得た者次第で、悪の材料にも善の材料にもなるんだ。


 そろそろ、あいつを呼ぼう。

 

つづく

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