第53話 彼氏寝取られ女と婚約破棄され女の復讐

 サオリは唱和した。


降臨サモン


 魔法陣から光の柱が立ち昇る。

 光の中から、似顔絵ソックリの一人の男が現れた。


「慶太君!」


 チナツとサオリが揃って歓声を上げる。


「ほら、見てよ! 私って本番には強いんだから!」


 サオリが胸を張る。


「おお? ここはどこだ? 俺、確か学校で……」


 召喚されたケイタは、不思議そうに辺りを見渡してる。


「慶太君! 私よ! 千夏よ!」


 チナツが満面の笑みで走り寄る。


「慶太、ここは異世界よ! 私がよく行きたいって言ってた!」


 サオリがチナツを押しのける。

 女にもてて羨ましいなあ。

 僕はそう思った。

 女二人に囲まれたケイタは困惑していたが、だんだん状況を把握出来たのか目の焦点が合って来た。


「沙織はいいとして、千夏……お前、死んだんじゃないの?」

「ええ。そこにいる女に突き飛ばされてトラックに引き潰されて死んだわ。だけど、この世界に転生したの。赤ん坊からスタートして今日までずっと、あなたのためにここで生きて来たわ」

「重いな……」


 ケイタは顔をしかめた。


「千夏、よく聞きなさい。慶太は私と結婚するのよ。そして、私のお父様の会社を継ぐの。ねっ」


 サオリはケイタの顔を覗き込んだ。

 ケイタ、ここはよぉく考えて答えるんだ。

 だけど、ケイタは悪びれも無くこう言った。


「ゴメン。千夏。俺、沙織のことが好きだから」


 チナツは負けた。

 悔しいのか、拳を握り締めたまま立ち尽くしている。


「ルビー様」


 執事のトールスがルビーことチナツのことを心配している。


「……ってか、ここ熱くね。早く学校に戻りたいんだけど」

「大丈夫。私、召喚魔法使えるから、逆のことをすれば……。でも、私、慶太とならここでずっと一緒に住んでてもいいかな」

「こいつぅ!」


 空気を読まない(否、読めない)バカップルがイチャつき出した。

 今度ばかりは、さすがの僕も復讐する相手(この場合はチナツ)に同情した。

 彼女は元々、この世界の住人ではない。

 ここに転生しなければ、魔王討伐パーティにも入ることなく、僕に嫌がらせすることもなく、元の世界で幸せに暮らしていたんだ。

 その幸せを壊したのは、この自分勝手女サオリじゃないか!

 こいつこそが……


金剛石飛翔ダイヤモンド・スプラッシュ!」


 ジェニ姫!?

 彼女の手から氷のつぶてが無数に放出される。

 それがサオリとケイタに一直線で向かって行く。


「危なっ! 何すんのよ!」


 間一髪、サオリとケイタは鋭い飛翔物を避けた。

 よかった……。

 でも、なぜジェニ姫が!?

 そうか、彼女はグランから婚約破棄された身。

 同じく、彼氏を寝取られたチナツにシンパシーを感じて、こんな行動を……?(いや、この場合はちょっと違うか……)


「ちょっと! ストップ!」


 僕は声を荒げた。

 サオリに死なれると困る。

 僕は、彼女にこの後、試して欲しいことがあるんだ!

 だけど、そんな思いも虚しく、サオリとケイタを氷のつぶてが襲う。


「グゥオゴオオオオ!」


 突如ゴーレムが現れ、氷のつぶてを一身に受ける。

 まるで、バカップルの盾になるかのように。

 その後、続けざまに魔法陣から、モンスターが飛び出す。

 子ケルベロスにゴーレム、キメラにミノタウロス。

 トロルにドラゴン……

 全て、サオリが手なずけた者達だ。


「さぁ、お前達、私とケイタに危害を加える者達を、全て殺ってしまいなさい!」


 使役されたモンスター達は従順だった。

 僕らに襲い掛かる。


つづく

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