第44話 婚約破棄された王女(元)

「あなたが父上の言ってたケンタね」


 先代の王様の娘、ジェニ・アフォン・エスタークが目の前にいる。

 腰まである白銀の髪。

 白いおもての中央には真っすぐ通った鼻梁。

 大きなサファイアブルーの瞳。

 白いローブに身を包んだ高貴な姫君。


「お久しぶりです」


 久々に見たその姿に、僕は驚いた。

 最後に見た時より美しくなっている。

 あの時は確か、魔王討伐した日に城で行われた祝賀会だった。

 一瞬だけ見掛けた彼女の姿はまだ幼かった。

 僕と同じように彼女の手には手紙が握られていた。


「グランに復讐するんでしょ?」

「ひ、姫!」


 僕は思わず、ジェニ姫の手を掴んでギルドの隅の席に連れて行った。

 そんな僕らを気にすることも無く、ギルドは冒険者達の宴会で盛り上がっていた。

 良かった。

 どうやら気付いた者はいないようだ。


「親衛隊や兵士が聞いているかもしれません。気を付けてください」


 突然、ピキピキとテーブルに薄氷がはられた。

 テーブルに乗せられたジェニ姫の手から冷気が漂っている。

 彼女は『水』属性の魔法使い。

 大気中に漂う水分子を自由に操る。


「ふん! 攻撃して来たら返り討ちにするだけよ!」


 相変わらず気が強いなあ。

 祝賀会でも、欲しかったケーキを先に食べられて激怒していた。

 僕はジェニ姫に話した。

 復讐に至るまでの経緯を。


「ジェニ姫はどうして、ここに?」


 何故、彼女がこんなところにいるのか?

 彼女は確か、グランの元に嫁いだのでは?

 否、嫁がされたと言った方が正確か。


「そりゃ、お父様の言いなりになるのは嫌だったけど……。グランはカッコ良かったからね」

「結婚したんですよね」


 先代のディオ王は魔王討伐パーティのリーダー、勇者グランと約束していた。

 魔王を倒したら、王位を譲り、娘ジェニを与えると。


「破棄されたわ」

「え?」

「婚約破棄されたの」


 なるほど。

 そして、ここに……。

 ……って、話がだいぶ飛んでる気がする。


「破棄されたから、王国からも追放されたってことですか?」

「ぶん殴ってやったわ」

「え?」

「プライドを傷付けられたから、グランの頬を殴ってやったの。そしたら追放された」


 ジェニ姫は悔しそうに拳を握り締めた。

 拳に霜が降りたかと思うと、カチカチの氷になった。

 熱いこの国だと、この冷気は心地いい。

 とか、思ってる場合じゃない。


「だから復讐するために旅してるの!」


 僕と動機は違うが、彼女も同じ目的を持った仲間だ。


「それにしても、あなたほどの美しい方でも振られるんですね」

「ふん。あの男は国中の女を引っ張って来ては、もてあそんでるのよ。ほんと、病気よ。でも、私が振られる直接原因になったあの女。あいつだけは、私も認めるわ。めっちゃ綺麗だった」


 僕は何か嫌な予感がしたんだ。


「それは……」

「確か、シスター・マリナとかいったわね。今どうなってるんだか。彼女はグランのお気に入りだからね」


つづく

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