第3章 魔法使いの国編

第39話 恋する魔法使いルビー その1

 私には好きな人がいる。


 片想いかもしれないし、両想いかもしれない。


 私はそれを、怖くて確かめることが出来ない。




「おっはよー! 千夏」

「おはよ。沙織」


 私の名前は山田千夏。

 16歳の高校一年生。

 で、さっき挨拶して来たのは同じクラスの友達、早川沙織。


「ね、千夏。私、好きな人出来ちゃった」

「え?」

「二組の慶太君」


 慶太は私の幼なじみだ。

 今でも、家が近いのと、親同士が仲良しなので、週に二回は会っている。

 小学校の頃、よく悪ガキにイジメられてたあいつを、助けてやったのは私だ。

 弱っちくて、男として最悪、絶対付き合いたくないと思ってた。

 ......っていうか、男としてすら、見てなかったかも。

 だけど、最近あいつ、男らしくなって来た。

 きっと、中学生の頃に部活(空手)やったり、生徒会やったり、私がのんびりしてる間に結構、修羅場(その言い方もちょっと変かな)をくぐって来たからかな。

 それに、最近、肩幅とか広くなって、声も低くなって来てる。

 ちょっと会うたびに、私の中に新しい感情が湧いて来る。

 ドキドキが止まらないよ。


「今日、告白するんだ」

「ええっ!?」

「私、欲しいものは絶対手に入れる主義なんだ」


 沙織は私なんかと比べて、猫みたいな大きな目をしててメチャクチャ可愛い。

 私はいたって日本人といった感じの薄い顔だ。

 ......勝てるわけがない。


 放課後。


 沙織が教室を出て屋上に向かう。

 私はその後をつける。


「おい、山田」

「はっ、はい!」


 担任の桐山先生だ。


「お前、今日、掃除当番だろ?」

「あっ、はっ......はい!」


 こんな時に、もうっ!

 今頃、沙織のやつ、慶太に告白してるのかな。

 手とか繋いで、一緒にマックとか行こうね、とか言ってるのかな......。


 クソォ!


 握り締めた竹ぼうきの柄がひしゃげた。

 私しかいない教室に、眩しいくらいの西日が差す。

 オレンジ色になった私は、なんで、もっと早く慶太に告白しなかったのだろうと後悔して泣いた。


「千夏」


 その声は慶太。

 私は振り向いた。

 廊下から彼が手を振っている。

 私はたまらなくなって、教室を飛び出し彼に抱きついた。


「好きなのぉ!」

「俺もだよ」




 慶太は沙織の告白を断ったそうだ。

 私のために。

 二人の帰り道、青信号になるのを待ちながら、どちらからともなく、気が付くと手を繋いでた。

 車側の信号が青から赤に変わろうとしている。


ゴオオオオ!


 渡り切ろうと無茶をする一台のトラック。

 猛然と横断歩道に侵入して来た。


「あっ!」


 私は背中に物凄い衝撃を感じた。

 いつの間にか、慶太と繋いでいた手がほどかれていた。


 まずいっ!


 身体がつんのめり、横断歩道に入ってしまう。

 体勢を立て直すことが出来ない。

 だけど、何とか堪えようと首を後ろにそらすと、


 中指を立て、笑顔でこちらを見ている沙織。


「そっ、そんな!」


 その瞬間、私はトラックにはねられ宙を舞っていた。


◇◇


「また、この夢か......」


 16歳の誕生日から、この夢を見るようになった。

 それをキッカケに前世の記憶、つまり転生前の記憶が次々と蘇って来た。


 私は魔法使いルビーじゃない。

 普通の16歳の女子高生、山田千夏だ。


つづく

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