第40話 恋する魔法使いルビー その2

 城の奥深く。

 地下10階のその場所にある魔法陣。

 私は今日もそこで詠唱する。


降臨サモン


 魔法陣の中心に光の柱が立ち昇る。

 刹那、光の中から現れたのは......


「チュウ......」


 一匹のハムスター。


「くっ......」


 そいつは私の股の間を潜り抜けると、壁に空いた穴に逃げて行った。

 私は攻撃魔法専門。

 特に『火』属性についてはめっぽう強い。

 だが、召喚魔法に関してはからきしダメだ。

 私の好きな人、慶太を召喚するために何度もチャレンジしているのだが......。


 魔王討伐が終わり、この西の国を与えられた。

 そんな記念すべき日に、私は16歳になった。

 そして、徐々に転生前の記憶が蘇った。

 それからは、慶太に会いたいだけの毎日だった。


「ルビー様。連れてきました」


 私の執事トールスが、暗闇の中から現れた。

 イケメン。

 私に優しいし、カッコいい。

 だけど、私は慶太が(略)

 彼の隣には縄で縛られ、足枷を付けられた男がいる。


「やれ」


 兵士達によって、その男は魔法陣の中央に寝かされた。


「なっ、何する気だ! 俺は無実なんだ! 助けてくれ!」

「殺人と強盗の罪で、お前を裁く」


 私は冷たく言い放つ。


「だから、でっちあげなんだ! やってないって言ってるだろ!」


 私は泣く男を無視して、詠唱する。


降臨サモン


 私の非力な召喚魔法を強力にするために必要な生贄。

 それがこの無実の罪で連行されたこの男だ。


シュゴオオオ!


 光の柱に包まれた男は、「ああっ!」と声を上げ消えた。

 きっと今頃、別の世界に転生したのだろう。

 その代わり、慶太......あなたがここに現れるはず。


「うっ......」


 男の代わりに現れたのは、


「ワンワン!」


 犬。


「トールス」

「ははっ!」


 犬はトールスに命じられた兵士達によって連行された。


「ああっ!」


 自分でも情けなくなる。

 同じ魔法なのに、これほど得手不得手があるとは。

 『召喚魔法辞典』にはこう書かれている。


 自分が望む者を召喚したければ、召喚魔法のスキル自体を上げるか、生贄を用意すること。


 私はさっきも言った様に召喚魔法に向いていない。

 だから、手っ取り早く生贄を用意した。

 質量保存の法則と同じだ。

 誰かが転移元から転移先に召喚されたとする。

 その穴を埋めるために誰かが転移元に召喚される必要がある。

 つまり、私は生贄と慶太を交換しようとしているのだ。

 だが、私の召喚魔法下手のせいで、未だかつて成功したことはない。

 生贄の数は1000人に上る。

 その誰も彼もが無実の罪でここに連行された国民達だった。

 今頃、生贄たちは、どこかの異世界に転生していることだろう。


つづく

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