第34話 感染王国

 タブは教団での生活に耐えられなくなり、逃げ出そうとした。

 途中で見つかってしまい、崖から飛び降りるように指示された。

 自殺と見せ掛けるために。

 運良く、岩壁から突き出た木の枝に引っ掛かって助かったそうだ。


「これも教団のご加護かな」


 彼は皮肉を言っているつもりだろうが、その目は怒っていた。

 彼も僕らの仲間に加わった。


 一ヶ月後。


 南の国だけで、とある病気が流行していた。

 国民の8割がこの病気に掛かった。

 だけど、僕とその仲間達はこの病気に掛からなかった。

 死に至ることはなかったけど、全身がだるくなり高熱が出る。

 風邪の協力バージョンみたいな症状がずっと続く。

 街はそのせいで活動を停止した。


「コブチャ様、病気を治してください」

「お願いします!」


 信者達がコブチャがいる城に押し掛けている。

 だけど、彼からの反応は何もない。


「おい! こんな時に何やってるんだ! 高いお布施を払ってるんだぞ! いつもの手かざしで治してくれ」


 病気に掛かった子供を抱えた男が、大きな声で訴える。

 だけど、城からは何の反応も無い。

 少し離れた場所で、僕はその様子を見ていた。

 僕はこうなることが予測出来ていた。


 コブチャにこの病気は治せない。

 何故なら、この病気は神でも無いのに、神を名乗ったコブチャへの天罰なのだから。


「やはり、暴動が起きたか」


 マツヲが僕にそう言った。


「うん」


 僕は頷いた。


 教団の権威は失墜した。


 病気を治せないコブチャに苛立った信者達が城の中へと攻めて行った。

 それを確認して僕はマツヲの家に帰って来た。


「しかし、何の罪も無い信者を巻き込んでしまって、何だか後味が悪いな」


 マツヲが腕を組んで考え込んでいる。


「あら、皆の目を覚まさせるにはこれくらいの荒療治が必要なんじゃないかしら」


 シヲリはサッパリした様子で、兄を励ましていた。


「俺は、あいつらに復讐出来れば、どんな形でもいい」


 タブは拳を握り締めている。


「よし。そろそろあれを登場させよう」


 僕はシヲリに目をやった。

 彼女は頷き、部屋の奥へ向かった。

 そして、木箱を携え戻って来た。

 箱を開けると、中には沢山の小さな石が入っていた。


「病気の特効薬」


つづく

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