第33話 教団の真実

 次の日。


 僕はもう一度、神殿に向かった。

 人垣の後ろから、コブチャの『奇跡』を観察する。

 若い男と若い女のカップルが現れた。

 コブチャの方に向かって行く。

 その女は足を怪我している。


「おや?」


 昨日は老婆と少女の組み合わせだった。


「どうした?」


 マツヲが不思議そうに問い掛ける。

 コブチャはいつものように、手かざしして傷を治す。


「僕の予想が外れた」

「え?」

「昨日と同じ人が出てくると思ったら、違った」

「どういうことだ?」

「サクラを使ってると思ったんだ」


 商売でよく使う『偽の客』だ。

 恥ずかしながら、僕もタピオカミルクティー屋をやっている時、一人雇ってた。

 その偽客にタピオカミルクティーを買ってもらい、美味い、美味いと店の前で叫んでもらったんだ。

 もちろん、本当に売れ出したら、その人には報酬を渡して辞めてもらったけどね。

 

「なるほど。じゃ、コブチャとグルになっている奴がいると思ったんだな」

「うん」


 マツヲと話しているうちに、恒例のメインイベント『蘇生』が始まった。

 祭壇の死体は小さな子供だった。

 昨日は若い男だったのに。


 一週間後。


「ゲホゲホ……」


 僕が一週間前にギルドで雇った男が戻って来た。


「大丈夫ですか?」

「この様を見れば分かるだろ!? 大丈夫なわけじゃないだろ!」


 口から血を飛ばしながら抗議して来た。

 彼の身体は本当にボロボロで、リンチでも受けたのだろうかあちこち殴られた跡がある。


「どいて」


 シヲリが彼に駆け寄り、手をかざす。


大回復ビッグリカバリ


 男の傷が治って行く。


「ありがとう」


 そう言うと、男は僕の目の前に手を出し報酬を欲しがった。


「その前に、コブチャ教で知ったことを話してください」

「ケチな奴だな」


 僕はこの男(タブという名前だ)にギルドを通して、コブチャ教に潜入して情報を仕入れてくるように依頼した。

 タブは金に困っていたようで前金として10万エン受け取り、教団に潜入して来てくれた。


「まったくヒドイところだったぜ」

「どんなところがですか?」

「まず、『敬意を表したもの』という名のお布施を払えない者は、修行と称して強制労働させられる」


 コブチャの地下帝国作りや、経営する弁当屋、その他、色々な仕事をやらされる。


「修業とはよく言ったもんだ」


 マツヲが感心したように言う。


「あとは、ありがたい教祖様の髪の毛を高値で買わされる」

「おえ!」


 シヲリが気持ち悪そうに口を抑える。


「恐ろしいのは、教祖の言うことを聞かないと、地獄に落ちると言われるんだ。逆に言うことを聞くと天国に行き、来世で必ず幸せになれるらしい。それを皆、真に受けて修行とお布施に励んでる」


 この男、タブは洗脳されなかった。

 僕達が予備知識を与えておいたからだ。


「私達のお父さんとお母さんはいたの?」

「ああ、それらしい人を見た。ただ、教団内でかなり上の方らしくて、コブチャの後ろにいつも控えていた」

「ああ……」


 シヲリが手で顔を覆った。

 シクシクと泣いている。

 その震える肩を、マツヲが優しく撫でている。

 この兄妹の両親は、コブチャ教に入ってしまった。

 『奇跡』に魅入られてしまったのだ。

 僕はコブチャに復讐したい。

 そして、この兄妹は両親を取り戻したい。

 僕と二人の利害が一致したんだ。

 だから、金を出し合い、タブを雇って教団内に潜入させたんだ。


つづく

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