第31話 『奇跡』と『治癒魔法』

 東の国を後にした僕は、草原の中を歩いていた。

 南の国へ入った。

 地図によると、このまままっすぐ進むとコブチャがいる領地に辿り着くようだ。

 地平線に沈みゆく夕陽がすごく綺麗だ。

 何て、悠長なことを言っていられない事態が数分後、発生した。


「グゲゲゲ!」


 僕の目の前にゴブリンが現れた。

 だけどたったの一匹だ。

 僕でもなんとかなりそうだ。


「とりゃあ!」


 銅の剣で先手必勝!

 クリティカルヒット!

 一撃でゴブリンに致命傷を与えることが出来た。


「グエグエ!」


 這うようにして逃げて行く。


「ふう……」


 ホッとした。

 魔王討伐のパーティにいた頃から戦闘は苦手だ。

 そんな僕は雑用係だった。

 パーティの皆が休むためのテントを張ったり、食材を採ってきて料理を作ったり。

 後、疲れたメンバーをマッサージしたり、皆が寝ている間にモンスターが来ないか見張ったり……


 う~ん。

 我ながら働き者だったな。

 そんな僕が平民にされた上に、結婚相手を寝取られるなんて!

 世の中間違ってる。

 僕は広い草原の中、夕日に照らされながら、復讐の炎を燃やしていた。


ドドドド……


 遠くから音が聞こえる。

 地面を踏み鳴らす音、そして土煙。


「げっ!」


 10匹くらいのゴブリンが僕に向かってくる。


「うわぁ~!」


 絶叫と共に僕は無我夢中で逃げる。

 ゴブリンが追い掛けてくる。


「ひっ!」


 草に足を取られた僕は、顔面から地面に倒れた。

 ゴブリンが襲い掛かる。


 やばい!

 こんなところで殺されるとは!


「グエ!」

「ギャッ!」


 ゴブリンが次々倒れて行く。

 矢が降り注ぐ。

 顔を上げると、目の前の丘の上から馬に乗ったアーチャーが弓を放っている。

 ゴブリン達は退散していった。


「大丈夫か?」


 馬から降りて来たアーチャーの男が僕に問い掛ける。


「はっ、はい」

「この辺は夜になるとモンスターが多く出現する。一人で出歩くなんて命とりだぞ」

「すいません……」


 僕は南の国に向かっていることを彼に話した。


「変わった奴だな。あんな国に行きたいなんて。ま、いいや。今日は俺の家に泊まれ」


 その男はマツヲという名前だった。

 年齢は20歳。

 端正な顔立ちで眼鏡をかけている。

 細身で馬に乗る姿がカッコいい。


「あ、お兄ちゃん。おかえり」

「おう」

「その人は?」

「ゴブリンに襲われてた旅の人だ」


 マツヲは妹と会話している。


「はじめまして。シヲリです」


 マツヲの妹で16歳。

 自分と同年代。

 栗色の髪が小さな白い顔を包んでいる。

 目が大きくて猫みたいで可愛いな。


「あら、顔に傷が……」


 シヲリが僕の顔に手をかざす。


小回復スモールリカバリ


 彼女がそう唱えると、僕の傷が見る見る治って行った。


「ありがとうございます」

「いえいえ、私、治癒魔法使いなの。傷付いた人を治す。これは私の義務であり運命です」

「なるほど」


 コブチャにこの娘の爪の赤を煎じて飲ませてやりたいよ。


「ま、この国では治癒魔法は『奇跡』とやらに比べて一段下に見られてるがな」


 マツヲがため息をつく。

 『奇跡』

 それは一体なんなのか?

 

つづく

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