第29話 いずこへ……

 遂に東の国を旅立つ日が来た。

 

「今までありがとう。じゃ、行ってくる」

「ああ。気を付けてな」


 玉座に腰掛けるカズシに僕は礼を言った。

 結局、世間的にはカズシが世代交代という形で東の国の首領という座におさまった。

 彼なりにこの国を変えるんだと意気込んでいる。


「あの天井の穴をなんとかしなきゃな」


 王の間を出ようとする僕の耳に、カズシのつぶやきが聞こえた。

 僕は見上げた。

 王の間の天井に巨大な穴が開いている。


 数日前の反乱の日。

 タケルが最後の力を振り絞り僕に斧を振り下ろそうとしたその時だった。

 彼の頭が弾け飛び、僕は一命をとりとめた。

 冷静さを取り戻した僕は、こういうことだと理解した。

 空から王の間の天井を突き破り、タケルの頭に衝撃波が降り注いだのだ、と。


 では、その衝撃波は何故、発生したのか?

 誰かが発したのか?

 都合良くタケルに命中したのも不可解だった。


 王の間を後にし、城門をくぐり、僕は街に出た。


「ケンタ、頑張って来いよ!」


 街の人や船長が僕を激励してくれた。


「ありがとう」


 戦いの後、グルポはこう言った。


「いつかどこかで会うだろう。その時に、報酬は頂く」


 彼は僕の有り金を受け取ることなく去って行った。

 彼は本当に不思議な人だった。

 だけど、きっとまたどこかで会わなければ。

 彼にはまだ金を払っていない。


「寂しくなるけど、頑張ってね」


 ギルドに行くと、サチエが僕の手を取って励ましてくれた。


「ところで次はどこに行くの?」


 東の国に隣接しているのは、

 魔法使いルビーが治める西の国。

 僧侶コブチャが治める南の国。

 そして、勇者グランの国。

 

「グランの国にすぐに行きたいです」

「無理よ」

「ですよね」


 今の僕じゃグラン勝てないのは分かっていた。

 グルポだけでなく、もっと強い仲間を見つけなければ。

 そのためには、もっと金が必要だ。

 その金だが、僕の手元には1万エンしかない。

 この国の首領になったカズシに、僕は有り金のほとんどを渡したからだ。

 カズシ、グランの圧力もあるかもしれないが、頑張って幸せな国を作ってくれ。


 僕は南の国に向かうことにした。

 僧侶コブチャが治める国だ。

 彼は治癒魔法の使い手だ。

 パーティを組んでいた頃、彼はトロルに襲われて瀕死だった僕に治癒魔法を使ってくれなかった。

 その代わり、グランには惜しみなく治癒魔法を使っていた。

 自分より地位が高い者には媚びへつらい、自分より地位が低い者には冷たい態度で接していた。

 とてもマリナと同じ、聖職者とは思えない奴だ。

 攻撃力という点では僕と同レベルのはずだ。

 追い詰めてグランの弱点を聞き出してやる。


戦士の国編 おわり

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