第28話 ざまぁっ!

 さすがに、両手両足が無い状態では最強と謳われた戦士タケルといえども、どうしようもない。


「うっ、うわあああ……」


 四散した四肢をかき集めようと、身体を芋虫みたいにくねらせている。

 集めたって、くっつかないだろ。

 僕はその様を見て、憐れだと思った。


「ひええ!}


 兵士たちがそんなタケルを置いて逃げ出した。

 そいつらをグルポが追い掛けて行く。


「おい! 貴様ら逃げるのか! 親衛隊はどこだ! こんな時のために高い金を払ってグランから雇ったんだぞ!」


 もういいよ。

 勝負は決まった。

 僕の獲物はタケルだけだ。


「よお」


 僕はしゃがみ込んで、タケルの顔を覗き込んだ。


「おっ! 貴様は、ケンタ! どうしてこんなところに?」

「そんなこと、どうでもいいだろ?」


 僕はうつ伏せになっているタケルの身体を、爪先でゆっくり持ち上げて仰向けにしてやった。


「おっ! おい、こら! 動けないだろ!」


 甲羅を背にした亀みたいに、短くなった手足(短くなったといっても、もうでっぱりくらいのものだが)をばたつかせた。


「ははは!」


 僕は大笑いしてやった。

 パーティを組んでいた頃、僕はタケルにいつも重い荷物を背負わされていた。

 僕は重さに耐えかねて、仰向けに倒れた。

 その様を、タケルは大笑いしていた。

 同じことを今してやった。


「ケンタ……」


 カズシがよろよろと立ち上がって僕の方に近づいて来た。

 僕の豹変ぶりに驚いているようだ。


「さっきはすまなかった……」


 僕の名前を言いそうになったことを気にしているみたいだ。


「いいよ。もうグルポが何とかしてくれた。カズシもよくやってくれた。あとはこの人を葬るだけだ」


 僕はきっと、今、すごく冷たい目をしているんだと思う。


「すまない! 許してくれ! お前を平民にすると言ったのは、グランなんだ。俺はお前のことを評価してたんだ! だから、平民にするのはもったいないって言ってやったんだ。お願いだ! 俺には娘も嫁もいるんだ!」


 娘も嫁もいるだと?

 僕はマリナを奪われたんだぞ!

 今頃、グランの奴に寝取られてるかもしれないんだぞ!


「貸してくれ!」


 僕はカズシから無理やり剣を奪い取った。

 それを、タケルの頭頂部に押し当てる。


「死ね!」

「待ってくれぇ! お前が一番復讐したいのはグランだろ? 奴の弱点を知りたいだろ? なっ?」


 グランの弱点。

 あの全ステータスがカンスト状態のグランに弱点があるのか?

 あるとしたら、それが何なのか知りたい。


「それって……」


 僕は下を向いて考えた。

 一瞬油断してた。


「あっ」


 顔を上げると、斧を口にくわえたタケルが僕の頭の上を飛んでいた。

 鬼の様な顔で僕を睨みつけている。

 仰向けで手足の無い状態から、どうやって弾みをつけて飛び上がったのか。

 こんな目に合わせた僕への復讐心が、タケルの不可能を可能にしたんだろう。

 首を振り口にくわえた斧を僕の頭に振り下ろしてくる。


 血が降り注いだ。

 

 僕の血じゃない。


 頭が弾け飛び、胴体だけになったタケルが僕の身体に振って来た。


「ぐえ!」


 僕はその身体に押しつぶされた。

 一体何が起きたのか?

 理解するのに数秒を要した。


つづく

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