第1章 戦士の国編

第15話 戦士タケルの憂鬱

 ハーレム部屋。

 俺は自分の寝室をそう呼んでいる。

 沢山の女をはべらせて今日も酒を飲む。

 まったく、グラン王に紹介してもらった『スライムの欠片』を売る商売は儲かって仕方がない。

 まぁ、グラン王に上納金を納めなきゃいけないけど、それを差し引いても大した金額だ。

 お陰で、俺は毎日こうやって自分好みの女たちと酒を飲み、遊ぶことが出来る。

 これが桃源郷ってやつか!?


「タケル様」


 扉越しに声がする。

 またあいつか。


「なんだ?」


 俺は苛立ちながら上着を羽織り、扉を開ける。

 そこには黒い軍服に黒い帽子の男が一人。

 我が国の親衛隊隊長・サトザキ。

 相変わらず無表情で何を考えてるか分からん奴だ。

 

「なんだ?」

「カズシ様を今日、街で見掛けました」

「あいつ、また悪さしてたのか?」


 カズシは俺の弟のタケシの息子だ。

 つまり俺の甥っ子だ。

 やたらと俺やタケシに反抗する面倒くさいガキだ。


「何? あいつがタピオカミルクティー屋を助けた?」


 城を出たいなどとほざくから、好きにしろと言ったらこの様だ。

 それにしてもタピオカミルクティーってなんだ?


「ほっとけ。その内、自分の力を思い知って戻ってくるわい!」


 俺は早く酒池肉林の中で溺れたかった。

 そんな俺をサトザキが軽蔑する様に、じっと見る。


 俺は親衛隊が好きじゃない。

 国の統治のために、グラン王からレンタルする形で仕方なく親衛隊を雇っているが、あいつらは報酬がやたらと掛かる。

 かと言って、ケチケチしてると足元を見られて、そのことをグラン王にチクられかねない。


バタン!


 俺は力任せに扉を閉めた。


「タケル様、気分直しにブランデーでもどうぞ!」

「私がお相手しましょうか?」

「何よ! 私が先よ」


 女たちが不機嫌な俺のご機嫌を取ろうとする。

 俺はそんな女たちに金をばら撒く。

 我先にと、女たちが金を拾おうと醜く争う。


 まったく、金さえあれば何とでもなる。


 東の国の統治者になって一年。

 俺にとってのこの一年は忙しく、短いものだった。

 グラン王から東の国を治めるように言われた時は、これで俺も一国一城の主になれたと喜んだもんだ。

 だけど、統治者という位置がこれほど大変だとは夢にも思わなかった。

 武力一辺倒で生きて来た俺に政治なんて土台無理なのだ。

 だからその辺は、弟のタケシに任せている。


 ああ!

 戦いたい!

 剣を振り回したい!


 パーティを組んで魔王討伐の旅をしていた頃が一番楽しかった。

 いっそのこと反乱でも起こして、グラン王を倒してやろうか?

 いやいや、それは難しいな。

 だって、俺は嫁と娘をグラン王に人質として取られている。


 今は『スライムの欠片』を他国や工場に高値で売ることで金を稼ぐことだけが生き甲斐だ。

 『スライムの欠片』は様々な薬の原料になるということで、様々な場所で引っ張りだこだ。

 俺が治める東の国が『スライム島』に近かったのと、船を所有していたことが幸いした。

 グラン王がこの『スライムの欠片』貿易を俺に任せてくれたのは幸運だった。


 金があれば何でも出来る。

 いつか、俺の描く世界、そう、血の匂いがする戦いの世界を作りたい。


つづく

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