第11話 タピオカミルクティー屋をはじめました
「今時の若いものはなっとらん! たった一日で辞めるだと!? バカも休み休みに言え!」
船長がメチャクチャ怒り出した。
無理もない。
昨日雇った船員が、日給を貰った途端、辞めると言い出したからだ。
「すいません」
「すいませんで、済むか!」
「お詫びに僕が新しい仕事で大儲けしたら、船長にお金を沢山上げます」
「なんだと? お前、商売をやる気か?」
「はい」
船長の目の色が変わった。
「何をやるつもりだ?」
「タピオカミルクティー屋です」
「タ……タピオカ?」
僕は大陸に上陸した時から、気付いていた。
港の周りにミルクティーのカップが大量に捨てられていることを。
若い女がミルクティーのカップ片手に歩いていることを。
「確かにミルクティーはここでは愛されているが、タピオカ入れるだけで売れるもんなのか?」
「僕、飲んだことあるんですけど、プルプルしてて美味しいんですよ。若い女の子は絶対、食いつきます」
僕は小さいころ、それをマリナに作ってもらったんだ。
まぁ、正確に言うと、出来ちゃったって言うのが正しいかな。
マリナが別のデザートに入れようとしたタピオカを、手が滑って僕のミルクティーに入れちゃったんだ。
で、僕はそれが美味しそうだから飲んでみたんだ。
黒糖漬けのタピオカの甘さとミルクティーの甘さがピッタリで、僕ははまったんだ。
「ううっ……」
「どうした?」
「すいません。昔を思い出して……」
マリナのことを思い出して涙が出ちゃった。
「分かった。お前の真剣な目を見てると、嘘は付いてなさそうだ。二日後、そのタピオカミルクティーをわしに飲ませろ。そしたら辞めていいぞ」
「はい」
船長は船に乗ってスライム島に戻って行った。
二日後に船長が戻って来るまでに、僕はやることをリストアップした。
・タピオカを買う
・ミルクティーを買う
・カップを買う
・太いストローを買う
市場に行き、これらを揃える。
盗んだ『スライムの欠片』を売ってお金にしたかったけど、これは大事な資金源だから大事に抱えて置いた。
その代わり、ルキがくれた金と日給で必要なものを揃えた。
ありがとう、ルキ。
君は僕の代わりに今頃、薄暗いダンジョンの中でスライムを狩っているんだよね。
僕は安い宿に泊まり、そこで試作品の作成に励んだ。
マリナの味を再現しなければ。
二日後、
再び『スライムの欠片』を乗せた船が港に着いた。
「船長!」
「おう」
僕はタピオカミルクティーのカップを船長に渡した。
可愛いパンダの絵が描かれたカップを船長が持っている。
太いストローに口を付け、ズズズと吸ってる。
イカツイ顔だから、面白い。
「おおっ!」
船長が驚きの声を上げた。
僕は心の中でガッツポーズした。
「うっ……うまい! まったりとしていて、コクがあって……」
船長がお代わりを要求して来た。
だけど、僕はこう言ってやった。
「今度はお店に買いに来てください」
ってね。
商売だからね。
「おい、ルキ」
「はい」
「お前にこれをやろう」
何と船長は10万エンもくれた。
「えっ!? 何故?」
「わしはお前の商売に投資しようと思う。だからこの金を渡す。早くこの金を何十倍にして、わしに配当金をくれよ」
「分かりました。じゃ、貰ったという証拠に……」
僕は紙を取り出し、そこに貰った額と僕の名前『ルキ』と書いた。
「株券みたいなもんだな」
船長はその紙切れをそう呼んだ。
その頃の僕はまだ株の意味をよく知らなかった。
そんなものかと思っただけだった。
さぁ、次はお店をつくるぞ。
まずはタピオカで儲けて、ギルドに行く。
そして、強い者を雇うのだ!
つづく
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